そこでリードユーザーを探し出すために採用されるようになったのがピラミッディング(pyramiding)という手法である。専門知識や能力のレベルが高くなればなるほどそれを持つ者の数は減っていく。その形がピラミッドを想起させるのでこの名前がついているのである。

ピラミッディングでは、ある属性や品質に強いこだわりを持っている人はその属性について自分よりもよく知っていたり、優れている人を知っていると考える。例えば、「サッカーで一番遠い距離からゴールを決めることができる選手は誰か?」と尋ねられ、数人の選手の名前を挙げることができるプロサッカー選手や熱狂的サッカー・ファンは多くいるだろう。

ピラミッディングの手順はこうだ。強い興味を持っている人なら自分よりもその対象について詳しい人や優れている人を知っているはずだ。そうした人に、より優れたエキスパートを一人(ないし数人)教えてもらい、さらに紹介された人に同じようにより優れたエキスパートを紹介してもらう。こうして「紹介の連鎖」をたどることで最終的にその特徴(あるいは分野)の最高レベルの人を見つけ出す。

ピラミッディングは人が他人に対して持つ知識を活用して目標人物を探し出す手法である。そこでの探索は一人ずつ順に進められることになる。調査者は接触ユーザーが一人増えるごとに関心対象や目標人物について学習を重ねる。それは他人のことを知らない人間を想定し、回答者からの学習を無視し同時並行的に探索するスクリーニングと対照的である。

ピラミッディングの理論的基礎はグラフ理論というあらゆる関係を点と線だけで表現する数学の一分野にあり、経験的基礎は1967年にStanly Milgramが行った「小さな世界(“small world“)」に関する実験にある。

英語圏の人たちは次のような場合に「小さな世界だね(it's a small world)」という表現を使う。遥か遠くからやってきた人と自分との間に共通の知人がいることがわかったときだ。例えば、今日、私は東京で取材してきたのだが、聞き取りに行った対象者が先月島根県で会ったソフトウエア開発者の知り合いで、びっくりしてしまった。同じような経験をしたことのある人は多いのではないだろうか。

Milgramは遠く離れている任意の2人が何人の知人を媒介にすることでつながっているかを実験した。カンザス州ウィチタとネブラスカ州オマハの住民で調査に協力すると申し出てくれた人を起点にマサチューセッツ州ケンブリッジとシャロンに住む特定人物を最終受取人とする手紙の転送を依頼したのだ。最終受取人を知らない場合、自分よりその人のことを知っていると思える知人に手紙を転送してもらう作業を続けてもらった。結果は興味深いものだった。平均5人を経由すれば目標とする人物に手紙を届けることができたのである(もちろんすべての手紙が最終受取人に届いたわけではないので、実際はもっと多くの人に媒介される必要があることになるのだが)。