経営学者のマイケル・ポーターは、このように「差別化を謳っておきながら、低価格戦略も追求してしまう『中途半端』な状況」を「スタック・イン・ザ・ミドル」と呼び、競争戦略としては最悪の打ち手だと主張します。筆者も同じ意見です。

日本の家電産業が勝てなくなった最大の理由は、「競争の型」の変化に対応できていないから、というのが筆者の主張です。これは経営学者ジェイ・バーニーが1986年に『アカデミー・オブ・マネジメント・レビュー』に発表した考えに基づきます。これまで日本の家電メーカーは、技術力を軸としながら、他社と同じルールで切磋琢磨する競争環境にいました。経営学ではこれを「チェンバレン型」と呼びます。

しかし現在の家電業界は、「チェンバレン型」から「IO型」に移っています。「IO型」とは産業組織論(Industrial Organization)の頭文字を取った呼称で、自社に有利なルールを作り、独占的な立場をとる企業が勝つ競争です。ここで勝つには、規模の経済を使って大胆な低価格戦略をとるか、逆に広告費や販促費を大幅に増やして「技術だけに頼らない差別化」をする(※2)かのどちらかが必要です。しかし、これまでチェンバレン型で勝ってきた日本の家電メーカーは、IO型での競争が得意ではありません。

シャープは事業を絞り込んだ結果、液晶、家電、太陽光などいずれもIO型での競争を強いられています。複合機も早晩そうなるかもしれません。この競争で「中途半端な競争戦略」を打ち出しているうちは、勝機は見えてこないのです。

※1:「2015~2017年度中期経営計画(ノート付き)」(2015年5月14日)44ページ http://www.sharp.co.jp/corporate/ir/event/policy_meeting/pdf/shar150514_1_nt.pdf
※2:「たとえば、アメリカのシリアル業界やコーラ業界は、IO型の競争に近いといえるだろう。この業界の大手既存企業は、多額の広告費を支出し、小売業者と密接な関係を築いて店頭の棚スペースを占有する」(入山章栄「世界標準の経営理論 第5回」DHBR2015年1月号)

(宇佐見利明=撮影)
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