その一方で、売り上げが立つのは10月だ。しかし、肝心要の入金がいつかというと、手形決済ということもあって、それから2カ月後の12月。つまり、現金を手にできるのは、仕事を始めてから3カ月後なのだ。その間に支払った先行コストの累計は18億円にもなる。

なんとも切ないカラクリであるが、「お金は3カ月後に入ってくるから、給料の支払いを待ってほしい」とは経営者はいえない。仕入れコストも然り。だからといって、受注のチャンスを見送るという経営判断はありえない。対応策といったら、事前の自己資本の増強しかない。

「長期的には経済は成長する」という定理があっても、現実の世界では短期的に好・不況を繰り返すもの。アスリートが時間をかけながら強靭な体を鍛え上げる際、筋肉痛などに苦しむのと一緒だ。もし、その苦痛を嫌がってトレーニングを怠ったら、試合でのチャンスを活かせなくなる。企業も好・不況にかかわらず、日々贅肉をそぎ落としながら、自己資本という“筋肉”を付けていく必要があるのだ。

景気回復期の倒産が多い現実を踏まえ、いまこそ公的機関の保証の付いた緊急融資制度の導入が望まれるところだが、それを待っているわけにはいかない。これからの「景気回復=受注拡大」に備えるためには、やはり1~2カ月程度の運転資金は備えておくべきだろう。

また、前述では営業利益率を10%と仮定したが、実際には一般企業の営業利益率は5%が目安である。その分、先行コストは増えるわけなのだが、ほとんどのビジネスマンはこの数字を把握できていない。これでは景気の波に打ち勝つ財務体質を築くのは難しい。

「財務を制するものは企業を制す」――。景気回復が見えてきたいまこそ、この言葉を肝に銘じていただきたい。

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)