4 「異常あり」だと手遅れ?

健診において「異常あり」は、単に不健康状態であることを意味しています。ですから、異常あり=手遅れという見方は間違いでしょう。

健診の目的は自覚症状が出てこない時点、すなわち手遅れにならないうちに異常を発見することにあります。病気が進行した時点では、何かしらの自覚症状があるはずです。もし「異常あり」と出ても、基本的には予防や治療が可能なので、肩を落とす必要はありません。

5 半年後、がん発覚は誤診なのか

発見されたがんが、どこのがんかによるでしょう。先ほども指摘しましたが、法定の健診で検査するのは肺がんのみ。見つかったのが胃がんだとしたら、そもそも検査をしていないので誤診とはいえません。

一方、見つかったのが肺がんであれば、誤診の可能性はあります。肺がん以外でも、人間ドックなどで別途検査したがんが後日発覚すれば、誤診の可能性を否定できません。実際に誤診かどうかはケースバイケースです。

6 X線被ばく量と早期発見どちらがリスク高か

X線による被ばくを考える前に、放射線被ばくの基本を押さえましょう。放射線被ばくの影響の表れ方は2つあります。1つは、「確率的影響」です。がんや白血病は1回の被ばくでも発現する可能性があり、因果関係も不明です。線量が増えるにつれて発現の確率は高まります。

一方、被ばく線量に比例して影響が出るのが「確定的影響」です。確定的影響の症状として知られているのは、脱毛や白内障、皮膚障害など。これらはある線量までは発現せず、閾値を超えると影響が表れます。

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胃の直接撮影で自然放射能1年分の1/2以下

では、X線検査の線量は具体的にどれくらいか。胸部X線は間接撮影で0.05mSv、直接撮影で0.02mSv。CTは撮影する部分によって違いますが、胸部X線撮影の約300倍です。問題は、このレベルの線量を被ばくした場合、どのような確率で影響が出るかです。0.1mSvの被ばくによるがん死亡率は、30歳男性で0.9%、女性で1.1%。これをもとに計算すると、1回のCT撮影によるがん死亡率は1.15mSvで、0.0115%となります。これは確率的影響において、容認できるレベルといえます。

ちなみに東京―ニューヨーク間をジェット機で往復したときに宇宙線から受ける放射線量は約0.2mSv。これは胸部X線撮影の10倍。もし被ばくが心配なら、むしろニューヨーク出張を拒否すべきです。自然放射線も人工放射線も人体への影響度は同じですから、そのほうが医学的に合理的な判断です。

もちろんこれは反語的な意味で言っています。被ばくを理由に出張を断る人はいませんから、被ばくを理由に健診を避けるのは不合理。X線でがんになると心配するより、がんを見逃して進行させることを心配したほうが、ずっと理にかなっています。

東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター教授 和田高士
医学博士。1981年、東京慈恵会医科大学卒業、85年同大学大学院修了。同大学第4内科講師、同大学附属病院総合診療室診療医長などを経て、2008年より現職。日本人間ドック学会理事、日本生活習慣病予防協会理事。『検査と数値を知る事典』など著書多数。
(村上 敬=構成 奈良岡 忠=撮影)
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