実際の資本対所得比はどうだったのだろうか。ピケティはデータから、
「1910年の米国では、資本は所得の約7倍だった。しかし第二次大戦後、戦災による損耗で、資本対所得比は2倍程度にまで激減した」「ところが2010年には、それが5~6倍へ増加している」
ことを示した。そして資本対所得比が拡大した原因として、「資本収益率(r)が経済成長率(g)より高かった」ことを挙げている。
GDPは所得の総計なので、その成長率は所得の伸びを意味している。資本収益率が経済成長率より大きければ、富裕層の持つ富の自己増殖のスピードが、国民の所得上昇のスピードを上回ることになり、貧富の格差が広がっていくことになる。
この関係を示すためにピケティが用いた第二の法則が、
β = s/g
である。βは資本対所得比、sは貯蓄率、gは経済成長率を意味する。
上の2つの式を合わせると、
α = r/g × s
となり、貯蓄率が一定の下で「資本収益率が上がり経済成長率が下がると、所得に占める資本の取り分が大きくなる」という関係が導き出される。
そこに、先進各国の統計データからピケティが見出した「資本収益率は、1914~70年の一時期を除いて、経済成長率を終始上回っており、長期的にr>gという不等式が成り立つ」という歴史的事実を加味する。
従来は第二次大戦後のデータに基づき、「開発の初期段階では経済成長に伴い所得格差が拡大するが、その後は経済成長に伴い所得格差が縮小する」と考えられていた。しかしピケティはより長いスパンで多くの国を観察することで、先進国でも「資本収益率>所得の成長率」となることを明示、ひいては資本分配率の上昇――国民の全所得において、労働所得に比した資本所得の割合が上がり、持つ者と持たざる者の格差が年を追ってより大きく開いていくことを導き出したのだ。