名門校はなぜ「変な学校」なのか

全国約30の名門校を訪ね、新刊『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』を著した。私立も国立も公立もあるが、名門校と呼ばれるほどの学校に共通するのは、どこも「異常に個性的」だということだ。最近は麻布が「変な学校」としてことさら注目されているが、灘だって武蔵だって女子学院だって実は麻布以上に「変」である。それだけ「とんがった」教育を行っているのだ。

しかし面白いことに、学校にいる生徒や教師たちは、自分たちが「変」であることに気付いていない。それが彼らにとっての日常であるから、自分たちが「変」であると自覚できないのだ。それがまさに「当たり前」になってしまうのだ。だから、「変な匂い」を身にまとった卒業生同士は、匂いで分かる。その匂いは、卒業してもぬぐえない。むしろ時間が経つほどに強烈な匂いを放つようになる。

名門校の「当たり前」の中には、長い年月をかけて磨き上げられてきた教育理念、鍛え上げられてきた生きる力、積み上げられてきた成功体験が、「折りたたまれている」。その門をくぐった者には、それらが丸ごとインストールされる。生徒たちは当たり前に振る舞っているだけなのに、その学校の「らしさ」を体現していく。「当たり前」に突き動かされて人生を歩むようになる。母校への愛と感謝と誇りを感じながら。

学校の価値を偏差値や大学進学実績で推し量る風潮は未だ強い。そのような価値観に染まった大人は無意識のうちに、子供を、偏差値や学校名で評価してしまっているかもしれない。しかし名門校と呼ばれるほどいい学校の本質的な価値が、決して偏差値や進学実績によるものではないと、一人でも多くの人に知ってもらえれば、その風潮を少しでも改めることができるかもしれない。子供たちも目先のテストの点数ばかりにとらわれなくなるかもしれない。

そういう逆説的な願いこそを今回『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』に込めた。名門校の教育はたしかにすばらしい。しかし、みんなが名門校に行く必要はない。社会全体が、名門校のような空気で、子供たちを包み込んであげればいいのだ。

(宇佐見利明=撮影)
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