プロとして作品の価値、俳優の力量を評価
高倉健がこのふたつの作品について話していた時のこと、それ以外にも映画について彼が話していた時のことを思い出すと、彼が注目していた点はふたつだと思われる。
まずはその作品がある程度、ヒットしたかどうか。2点目は出ている主演男優、助演男優の演技はどういうものだったか。
彼が映画を見る時の目は素人とは違う。映画ファンとしての目ではなく、プロとして作品の価値、俳優の力量を冷静に評価していたのだろう。そして、いいところがあれば自分の作品や演技に採り入れようとするし、悪いところは切り捨てる。わたしたちとは違う目で映画を見ていた。
高倉健の映画の入り口は戦後のアメリカ映画だった。高校生の時に見た『哀愁』。ロバート・テーラー、ヴィヴィアン・リー主演の恋物語で、『君の名は』はこの映画にインスパイアされたとも言われている。その後、映画を見るようになり、好きな俳優はフランスの名優ジャン・ギャバンとなったが、それでも見慣れていたのはアメリカ映画だったのだろう。
最後にひとつ。アメリカ映画について、おまけのような話。
ある日、インタビューの後、次のような話を聞いたことがある。
「あれはカンヌだったかな。エレベーターを降りたら、『あなたは私の神だ』という、アメリカ人のあんちゃんに会ったんだ。口から唾を飛ばして、話をして、なかなか離してくれないんだ。あとで聞いたら、その彼がクエンティン・タランティーノなんだって。
『レザボア・ドッグス』のタランティーノは『パルプフィクション』でトラボルタを再生させたでしょう。あれもよかったね」
大作や話題作ばかりでなく、新人監督が撮ったアメリカ映画もちゃんとチェックしていたのである。(文中敬称略)