約6割が実母による「見えない虐待」
7万3765件――。厚生労働省から発表された2013年度の児童虐待の相談対応件数だ。全国の児童相談所(児相)からの報告に基づいて集計されている。2000年に施行された児童虐待防止法では、子供への虐待を、身体的虐待・ネグレクト(登校禁止や食事を与えないなど、健康を損なうような衣食住への無関心や放置)・心理的虐待(心に傷を残す暴言や差別)・性的虐待(子供への性的行為)の4つに分類している。
1998年と比べて13年度は10.6倍と、児相の対応件数も急激な右肩上がり。半面、テレビなどの扇情的な報道との相違点もある。たとえば、子供の致死事件は母子家庭に同居中の内縁の夫や、無職の父親が主犯という報道が多いが、虐待者別集計を見ると、実母が3万8224件(57.3%)と最も多く、実父以外の父は4140件(6.2%)。虐待死も約6.7万件の相談件数中58人(12年度)。
『児童虐待』(岩波新書)の著者で、元児相の相談員でもある川崎二三彦氏(社会福祉法人「子どもの虹情報研修センター」研究部長)も、こう話す。「たとえば乳幼児への虐待の発端は、子育ての悩みを抱えている母親が『食べるのが遅い』『泣きやまない』などのささいな理由で、子供につい手が出たレベルから始まっています。また、虐待は家庭内で起きるために外部から見えづらく、加害者である親も自分の行為が躾(しつけ)か虐待かが見えなくなりやすい。実母が虐待者の約6割を占める状況はここ10年以上同じなので、特殊な母親に限った問題ではありません」
冒頭の事例も、孝子さんに躾と虐待の区別がついていたかどうかは疑わしく、暴行の事実を知るのは家族と塾関係者のみで、厚労省の発表件数にも含まれていない。二重の意味で「見えない虐待」といえる。
子供の致死事件が、児童虐待全体の氷山の一角にすぎないなら、普通の子育ての延長線上で起きている虐待の実態は、それら極端な事例によって、むしろ隠されているのではないか。そこで子育て支援の現場に出かけた。