容積率が不動産の価値を決める

そもそも容積率がなぜ重要かといえば、それが不動産の価値を決めるからである。不動産の市場価値は、商業的に貸し出し可能なスペースがどれくらいあるかで決まる。土地の面積に対して容積率400%なら延べ床面積(建物すべての階の床面積の合計)は4倍、800%なら8倍。そこに投資してペイするかどうかで、その建物の商業的な価値が弾き出される。今の時代は、容積率次第でその土地が生み出す富が規定されるのだ。そうした観点からすれば、日本の都市では容積率によって創出される富がまだまだ少ない。容積率が低すぎるのである。

東京23区で道路や公園などを除く建物が建てられるエリアの容積率の平均は136%。容積率拡大の余地が残されている。(AFLO=写真)

東京23区で道路や公園などを除いて建物が建てられるエリアの容積率の平均は136%。対して米ニューヨークのマンハッタンの平均容積率は住宅街で631%。オフィス街では1421%だから、平均14階建てということだ。

山手線の内側だけを見ると、建物の高さの平均は2.6階。山手線内に匹敵する広さを持つパリの中心部における高さの平均は6階だ。パリの場合、ルイ14世がベルサイユ宮殿を築いた300年前から6階建てで、街並み重視のポリシーから、街のファサード(建物の外観)は当時と全く変わっていない。超高層ビルは「ラ・デファンス」と呼ばれる副都心に集中させている。

ドイツの場合は州に権限があるが、実際は市町村が容積率や高さ制限を決めている。たとえば欧州の金融センターになっているフランクフルトの容積率はマンハッタン並みだ。ところがミュンヘンでは100メートルの高さ制限がある。500年前に建てられたフラウエン教会の高さが100メートルで、これより高い建物はミュンヘンに相応しくないという理由だそうだ。逆に土地が狭い香港の商業地では、20メートルより低いビルを建ててはいけないことになっている。

このように世界ではそれぞれのコミュニティで容積率などの建築基準を決めている。街の景観を守るためにドイツでは庭木を勝手に切れないし、スイスのインターラーケンでは観光地のイメージを損ねないように「2階の窓からゼラニウムの花が表に垂れるように植えなさい」というルールがあったりする。建築に関してはコミュニティが強い権限を持っているのが世界の常識であり、それゆえに特徴的な街づくりができ、由緒ある街並みが守られているのだ。