「携帯がなくなった」と連呼する父

ところが、2日ほどすると呼び出しが途絶えたのです。

心配になって行ってみると、「携帯がなくなった」と言います(父は呼び出しチャイムの送信機を新しい携帯電話だと思い込んでいました)。ベッドの周辺を探しても見当たりません。

しかし、消えてなくなることはあり得ないので、父の体を動かしベッドの上をチェックしたところ送信機はパジャマの中から出て来ました。父は送信機の上で寝ていたわけです。また、体の下にあったのは送信機だけではありませんでした。父は煎餅と梅味の飴が好物で、ベッドの横に置いてお腹が空いたり口さみしくなるとそれを食べていました。その煎餅のかけらや食べかけの飴も体の下から出てきたのです。

どうしてそんな状態になったのか、わかりませんでしたし、送信機や煎餅のかけらが体の下にあれば痛いはずです。しかし、それさえ感じず、「携帯(送信機)がなくなった」と私に訴えている。

認知症の人の介護は大変だと聞いていました。体が動く人は徘徊の心配があります。寝たきりの人の場合は排便を弄んだり、介護をする相手に投げつけたりすることがあるとか。父はそこまでは行きませんでしたが、送信機や煎餅などの異物をなぜか体の下に入れて平然としている。

慌ててベッドを掃除し、父の体についている煎餅かすを拭き、パジャマを取り替えましたが、ほんの1カ月半前まで、ごく普通に生活し会話をしていた父がこんなになってしまった。

父の肉体も精神もどんどん壊れていくようで切なくて涙がこぼれました。

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