100人の知人より1人の友
会社でなにか不合理や不条理を感じることがあったとしよう。ところが3回目までは黙っていて、4回目になって突然、強い調子で意見を述べたらどうなるか。たぶん反発を食らうだけだ。だから、おかしいと感じたら、すぐに発言したほうがいい。
最初はびっくりされるかもしれないが、君の評価は、その時点で「変わった奴」となる。するとそれ以後は、「変わった奴」として扱ってもらえるのだ。
こうして精神の自由を確保すれば、ストレスはたまらないし、愚痴や陰口など出てくるはずもない。
逆に若いころから「お利口さん」で通して、いいたいこともいわずにいたらどうなるか。「おれはずっと我慢してきたのに、あいつは生意気だ」と、若手の足を引っ張るような見苦しい上司になるだろう。
ただ、発言するときに考えなければならないのは、「賛同者はいるか」ということだ。判断の分かれる事柄について、一方の意見を堂々と表明したとする。一同を見渡すと、みんなが批判的な顔をしている。「これは敵ばかりか……」と覚悟していると、面白いことに、あとになって「よくいってくれた」と共感してくれる人が出てくるものだ。
価値観を同じくする、いわば「真の友」の出現だ。ここでもし共感する人が誰もいなければ、自分のほうが間違っていた可能性もあるのだから、そのときは反省し、仮に事実誤認や認識不足があれば謝るだけだ。
大事なことは、100人の知り合いを持つより、1人の友達を持つほうが、長い人生では遥かに価値があるということだ。もし君の周囲が敵だらけであっても、心強い賛同者が1人いればいい。恐れることなんかまったくないと思うべきだ。
野田一夫
1927年生まれ。東京大学社会学科卒業。立教大学教授を経て、多摩大学初代学長、県立宮城大学初代学長などを歴任。近著に『悔しかったら、歳を取れ!』。