ページをめくる作業が、次のページの内容を自分の脳に喚起するためのスイッチになり、キーワードだけでなく論理の流れも見える。

4回目も同じようにサラッと読むのだが、山口さん自身の受け止め方に変化があらわれる。

「それまでは、私の内側に川のようによどむことなく流れていた教科書の内容が、4回目ごろから川の中に柵のようなものができて、そこに教科書の情報が少しずつ引っかかるようになる。つまり、より細かな意味が、私の頭に入ってくるようになります。5回目に読むころには、教科書の理解度が2割くらいから、いきなり8割くらいにはね上がります」

そのレベルに達すると、彼女が当初話していた「教科書の再現力」は一気に高まる。ページをめくる作業が、次のページの内容を自分の脳に喚起するためのスイッチになり、教科書に書かれたキーワードだけでなく、出題範囲全体の論理の流れもはっきりと見えるようになる。

いよいよ、最終段階に突入する。6回目では、全体像が頭に入っているので、机の引き出しから必要なものを取り出すように、見出しを見れば、その説明がすぐ思い浮かぶようになると、彼女は話す。

「最後の7回目は、斜め読みのような感じでも、自分が細かい部分まで理解できていることを実感します。しかも読むスピードをとくに変えなくても、ある部分については詳しく確認したり、ある部分については読み飛ばしたりすることが、自由自在にできるようになります。そのレベルに到達できれば、読むスピードも1回目の5分の1程度の速さになっているので、この段階なら、300ページ前後の法学の専門書を1日7冊ぐらいは読めてしまいます」

1日2000ページ以上、しかもそれが難解な法学専門書ということを考え合わせれば、彼女が中学時代から磨き上げた勉強法がとてもシンプルな半面、誰もがすぐにその域に達することはできないものであることもわかる。山口さんは、自身の勉強法をこう要約する。

「あえて言えば、1回目から3回目までは、教科書の内容を写真のように写し取る作業。それを自分の内側に入れます。出題範囲の全体像をつかんだうえで、4回目から7回目までは、ここにはこういう項目が書いてあるはずだ、と確認していく作業ということになるかもしれません」

後半は、自分の内側に写し取った全体像から、細部の論理の確認作業になるため、「(覚えたものを)再現する」とか「吐き出す」という、彼女の冒頭の説明にも納得がいく。

後編(2月23日更新予定)は、教科書をひたすら読む方法が使えそうにない、国語や数学などの教科は、どのように勉強していたのか。について解説します。

(小川 聡=撮影 新沢圭一=ヘアメーク)
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