録音機を忍ばせ、ノートに克明に記録するのは……
「それでも、恨みつらみを晴らしたいという人はいますからね」
この手の訴訟では、会社(法人)と上司個人の双方を訴えるケースが多い。すなわち、部下を持つ者は雑談1つにもリスクを抱えていることになる。
だが、ここで気になることがある。賠償請求が割に合わないとなると、セクハラやパワハラで被害を受けた人は事実上、泣き寝入りすることになるのだろうか。また、加害者と見なされた人は、膨大な額ではないにせよ、賠償請求で事実が認定されたら、個人で賠償金を支払う羽目に陥るのか。
「そこが問題です。今の損害額の算定法では、セクハラ、パワハラの被害者には手当ては薄い一方、管理職には部下に訴えられるリスクが常につきまといます」
まず考えられるのは、こうした紛争の防止策。セクハラ、パワハラ防止のため社内で指針を設ける会社が増えているという。
次に、野澤氏が提唱するのは保険の活用だ。民間の保険や特別な退職金制度を導入し、パワハラ・セクハラを受けた相手方から文句を言われたときに、そうした制度を事実上活用して事件が表面化する前にうまく解決するのだ。
「従業員が100人いれば、セクハラ、パワハラがなくても、うつ症や神経症に陥りやすい人が数人はいます。ごく日常的な言動から訴訟に至るケースも想定しておいたほうがいいでしょう」
デスクやスーツに録音機を忍ばせたり、克明にノートに記録しておくのも、裁判になった際に有利に働くのは間違いないだろう。が、「人格を疑われて、出世に響くかもしれません」と野澤氏。何事もバランスは大切だ。
野澤 隆
1975年、東京都生まれ。99年早稲田大学政治経済学部卒業。2003年司法試験合格、05年弁護士登録。08年、城南中央法律事務所開設。