秀才はなぜ対話力に乏しいのか
昨年11月、初めて会ったときの山中君の印象を、浅田氏は次のように振り返る。
「まず、最初のセミナーに遅刻してきたり、案内の係の人よりも先に会場に入ってきてしまったりと、基本的なビジネスマナーが身についていないなと感じました。それから、就職や自分の将来に対していろいろな思いは持っているようでしたが、話の優先順位を決めて、その思いをきちんと相手に説明することができないようでしたね」
なるほど。しかし、若い学生のことである。しかも理系だ。如才なさやうわべの会話術にやや問題があっても、京大卒というブランド力を覆すほどの致命傷になるとは思えないのだが……。
だが、「それはまったく違う」と、浅田氏は断言する。
「いま、企業が求めているのは、理系の専門的知識と文系のコミュニケーション力を兼ね備えた人材です。専門知識は大学の偏差値や成績で勝負できますが、コミュニケーション力は面接での“対話力”がポイントになります」
会話力ではなく、対話力?
「そう。会話力と対話力は違うんです。対話力とは相手と話の論点をずらさずに最後まで会話を続ける能力をいいます。そのためには相手が話している内容をきちんと理解する必要がありますし、自分が話したい内容の中から、何を話すべきか取捨選択をして、的確に相手に伝えなければなりません。山中君に限らず、いまどきの学生さんにはこの対話力に乏しい人が増えているんです」
その理由を浅田氏は次のように分析している。
(1)プライドが高い
誰かと話していて自分が知らない事柄が出てきたとき、その場で質問して理解しないと対話は続かない。だが、高学歴の若者ほどプライドが邪魔をして、わからないことを質問できない傾向が強い。知らないことをネットやスマホで簡単に調べられてしまう現代の環境も、若者の質問ベタを助長している。
(2)いまどきの若者に共通する独特の「やさしさ」
会話のノリやテンポを大事にするあまり、会話の流れを止めてしまう質問や反論ができない。仲間の話に同調するのがやさしさだと考えるので、論点がずれてもノリだけで会話を続けていく。子供のころからこうした会話ばかりを繰り返してきたため、しっかりと対話する訓練ができていない。
(3)大人と会話した経験が少ない
いまどきの若者は総じて同じ年代の少数の仲間とだけコミュニケートする傾向が強く、年代の異なる大人と会話する機会が少ない。そのため、自分たちの内部だけで通用する言語習慣だけで会話しがち。面接という大人を相手に目的を持って対話をするという場面を、事前にほとんど経験していない。