では、どういう運動が、脳を育てるために効果的なのか。レイティ氏が勧めるのは、一定時間にわたって心拍数を上げるタイプの運動だ。研究によると、数ある体力の評価基準のうち、とくに心肺機能が学業成績と強い相関関係を示しているという。
具体的な心肺機能の高め方は、速足でのウオーキングやランニング、エアロビクスやエアロバイクを使った運動など。週に2日は最大心拍数(注)の75.90%まで上がる運動を短めに、残り4日は65.75%までの運動をやや長めに、というのが脳のためには理想的だという。心拍数の目安としては、ランニングでたとえると、最大心拍数に対して80%以上というのはかなりきつい全力疾走、70%はやや息が上がる走り込みといった具合だ。心拍計を使って測ってみるのもよいだろう。
「ただ、子供たちの場合は、本人が好きで楽しいと感じることをやらせてください。かけっこ、ボール遊び、ダンスや体操など、なんでも構いません。毎日、運動させるのはとても大変なことですから、無理をしないことが大切です」(レイティ氏)
なぜ、サッカーやバスケットボールなどでは駄目なのか。その理由をレイティ氏はこう語る。
「チームスポーツの場合、運動に苦手意識を持っている子は、体を動かしにくい。ですから、頭を良くする運動の観点からは、競争や勝負を排除したほうが良いというのが、私の考えなのです」
さらに、体を動かしながら頭も使うような運動はより効果的だとも、レイティ氏はアドバイスする。
「ヨガのポーズ、空手の形といったように、自らの動きを意識させる運動は脳に良い刺激になります。また、複雑な動きをし、普段使わない筋肉を意識的に使うことも有効でしょう」(レイティ氏)
とはいえ、運動だけで成績が上がるわけではないとも、レイティ氏は指摘する。
「運動はあくまで、脳が学習するための準備を整える役割です。成績を上げるためには、そのあとの学習とセットで考える必要があります。運動を終えるとまもなく脳の血流が増しますが、このときこそが、思考力や集中力が飛躍的に高まるチャンス。勉強を始める前、できれば朝にやることをお勧めします」
できれば毎朝体を動かし、心拍数を上げてから勉強に向かう。これが最新科学が解明した「運動で頭を良くする」極意。
こうしたレイティ氏の理論を基に米国でboks(ボックス)と呼ばれる運動プログラムが開発された。
(注)最大心拍数:一般的には成人男性の場合、220から自分の年齢を引いた値を理論上の最大心拍数とみなす。