では、実際にどんなことをしているのか。トライワーク・プログラムの予定表を掲載した。このプログラムの場合、最低でも週3日、月曜日と金曜日の参加が必須となっている。
月曜午前の「就労ミーティング」。これはプログラムの中核である。
「前の1週間で自分が立てた目標をどれぐらい達成できたのか、この時間にチェック表を使って振り返ります。そして、10人前後の参加者グループ内で、ご本人に振り返りを発表してもらいます。発表内容には他の参加者が質問やコメントをし、発表者が困っていることをみなさんで考えます。そうすることで、参加者全員が仲間になり、同じ悩みを共有する体験が得られるのです」(作業療法士の龍亨氏)
不知火病院の復職プログラムは、集団精神療法を軸にしている。参加者は悩みの共有で孤立感を和らげ、自分にはなかった捉え方や考え方を知ることができる。患者と医療者が1対1でやりとりをする個人精神療法で得た安心が、集団のやりとりのなかで自信に発展することもあるだろう。
「月曜午後のオフィスワークは、復職に向けた自習です。事務の方ならデータ入力をしたり、経理の方だと電卓を叩いたり。そこまではできないのなら、自分が選んだ本の読書などで、どのくらい集中できるか試します。個々の職業につながることを、回復の段階に応じてやってもらう時間です」(龍氏)
火曜午前から金曜午前までの内容は、各種の作業療法が勢ぞろい、という印象だ。金曜午後の「SST(Social Skills Training)」とは何か。
「直訳すると社会生活技能訓練。自分が抱えている困難をロールプレーなどを通して解決していく手法のことですが、もっと多様なことをやります。例えば、認知再構成法と呼ばれていて、職場でイライラしたときにどんな気持ちだったのか、お話しいただきます。それで他の参加者から『こんな考え方もできるのでは?』と助言をもらうなどして、自分の考え方を変えていきます」(臨床心理士の宮成祐輔氏)
週の締め括りのSSTも、うつ病患者同士が相互に影響を与えながら成長し合う、集団の力の活用なのだ。
トライワーク・プログラムは、看護師2人、臨床心理士1人、作業療法士2人、精神保健福祉士2人の計7人からなるスタッフチームが運営している。プログラムの現場には、スタッフ3人前後が1週間ごとに持ち回りで参加。そこで起きたことや患者の状態については、頻繁なカンファレンスで7人全員が共有している。不知火病院のスタッフからは、明るさのほかに「和気あいあい」の空気も感じるのだが、それはこのようなチーム体制をがっちり組んでいるからだろう。