気質の問題が片付いても、まだコンプレックスが残っている人もいるでしょう。でも残念ながら、それを一言で打ち消してくれる魔法のような言葉はありません。人間は日々の積み重ねで形成されています。何十年も付き合ってきた自分の心を、たった一言で激変させるなんてことはできないのです。しかし、自分が発した言葉や自分の行動、頭に思い描くイメージは、少なからず心に影響を与えます。

たとえばあなたが、なかなか人と打ち解けられない暗い自分にコンプレックスを抱いているとします。まずは、明るく親しげに、大勢の人と話している理想の自分をイメージしましょう。次に、その理想のためにどんなことをすればいいか、具体的な方法を考えてください。考えるだけでなく、「テッパンネタを用意して他人を笑わせる」「飲み会に積極的に参加する」など、日々実践してください。そして毎日、太陽のような「明るいもの」をイメージして、「私は明るくなる、どんどん人と仲良くなる」など、声に出して唱えること。行動と言葉、そしてイメージを組み合わせることで、少しずつ感情が変化し、あなた自身も変わっていくはずです。

コンプレックスまみれの心を楽にするだけなら、方法はさらに簡単。自分のコンプレックスについて考え続ければいいのです。「パーッと憂さ晴らし」をすると一瞬は忘れられても、マイナスな感情は、なかなか打ち消せません。でも、2週間もそれだけを考え続けると、悩むことに飽き、どうでもよくなるときがきます。この「塩塗り療法」が、日本人には一番効くのです。コンプレックスと向き合うことでコンプレックスがなくなるなんて、やっぱり人の心って不思議ですね。

心理学者、臨床心理士 
植木理恵

1975年、大分県生まれ。2003年、東京大学大学院博士課程を単位取得退学。著書に『シロクマのことだけは考えるな!』など。
(構成=大高志帆)
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