日本というものはそもそも存在しない
日本をよくするという問題を考える前に、ひとつ前提を述べましょう。私は若手ビジネスパーソン向けの講演会などで、次のような質問を受けることがあります。
「日本は国際競争力がないといわれますが、なぜだと思いますか」
そのときにお答えしたのは、「日本というものはそもそも存在しない」ということです。もっといえば、日本企業というのも存在しない。ところが平均やマクロで語る人は少なくありません。
日本の国際競争力といったときに、それが何を指すかといえば、日本企業の国際競争力のことです。それでは日本企業とは何かといえば、トヨタやパナソニックといった各産業の企業の集積体ということになります。さらに、その日本企業を構成しているものは何かというと、ひとりひとりの社員であり、私たち個人です。
つまり、私たちひとりひとりが海外へ飛び出して挑戦しているか。海外の企業やそこで働く人たちと渡り合っているか。日本の国際競争力を問うということは、私たちひとりひとりの国際競争力を問うことと同義なのです。
どうすれば日本をよくできるかという問いにも、同じことがいえます。日本という国を構成しているのは、家庭をもち、企業で働く私たちひとりひとりの個人です。ですから、ビジネスパーソンであれば、新しい仕事のやり方を見つけたり、商品や事業を提案したりといった形で、それぞれの事業や業界において変革を起こすことです。そのためには、ときには古いものを否定したり、非効率なものをそぎ落とす必要もあります。当然、痛みも伴います。
自分ひとりの力で日本をどれだけ変えられるのか、と疑問に思う読者もいるかもしれません。しかし、どんなに小さなことからでも世の中は変えられると、最近私は思うようになりました。
市場規模が40兆円の生命保険業界からみれば、ライフネット生命はちっぽけな存在です。しかし、2006年の設立時から小さな挑戦を積み重ねてきたことで、最近はネットへの参入の関心が高まったり、情報の透明性を高めたり、流通の仕組みの変革に取り組む企業が少しずつ増えています。生命保険業界という池の中に、私たちが投げた小さな石によって波紋が広がり、業界全体に刺激を与えることができたと確信しています。