造船・重機械の名門、川崎重工業を、社長を含む経営中枢の解任劇という激震が襲った。三井造船との経営統合をめぐって反対派の10取締役が造反を決起し、6月13日の臨時取締役会で、長谷川聰社長(当時)ら統合推進派の3取締役を解任に追い込んだのだ。
同日付で社長に就任した村山滋常務(同)はこの日の記者会見で「経営統合ありきの姿勢であることに強い不信感を覚えた」と、統合推進派の独走への危機感から強硬手段を取ったことを強調した。
解任劇は一方で、4月下旬に報道され、両社が否定した統合交渉の事実を一転して認める情報開示の不備も露呈した。解任劇により三井造船との交渉は打ち切られる。しかし、苦境に陥った造船事業を取り巻く環境に変わりはなく、新経営陣は新たな打開策を迫られることになる。
三井造船との経営統合交渉について、反対派に回った10取締役には、報道された1~2週間前に知らされたという。10取締役はその場で反対したものの、その後も交渉は進められた。
実際、長谷川氏は報道直後の4月25日に発表した2015年度までの中期経営計画で、M&A(企業の合併・買収)を軸とする事業基盤の拡大を打ち出した。そこには当然、三井造船との造船事業の統合、さらに踏み込んだ本体同士の経営統合も視野にあったと思われる。
しかし、川崎重工社内には経営不振で、しかも造船事業規模で数段上回る三井造船との統合には反対論が根強く、これを裏付ける形で反対派の10取締役は6月26日の株主総会を控え、異例ともいうべき経営中枢の解任に踏み切った。
しかし三井造船との統合構想は、造船事業の存続もさることながら、造船技術を生かした将来性の高い海洋資源開発分野で競争力の高い同社を取り込み、衰退する造船事業を付加価値の高い収益事業に再生する狙いがあったとされる。
奇しくも、ライバルのIHIは12日、日揮などと共同で、ブラジル造船大手、アトランチコスル造船所に25%出資し、資源掘削船や海洋資源開発設備などを現地生産すると発表。川崎重工、三井造船の統合構想と同様に海洋資源開発を成長分野に位置付け、造船事業再生を目指していることを裏付けている。