フィギュアの横に仏像

先日も、ある企画の打ち合わせのために、台湾に行ってきました。毎回、台湾の若者たちと交流することが楽しみで、最新の現地情報を教えてもらっています。台湾の若者の多くは日本語を解しているので、中国語ができない私でもまったく不自由を感じたことがありません。彼らは概して日本のアニメや漫画やゲームが大好きなので、日本語だけでなく日本の流行や文化にも大変興味を持っています。そして、彼らにとって秋葉原は、一度は行ってみたい、憧れの「聖地」なのです。

台湾の交通の要である台北駅には5つの地下街があり、1日におよそ50万人の往来があります。その地下街のうちの1つ、台北地下街には「オタク通り」と呼ばれるエリアがあり、日本の雑誌やゲーム、フィギュア、カードゲームなどを扱う店舗が集積しています。まるで、地下の「リトル秋葉原」です。

台北地下街は、もともと家族で楽しめる買い物エリアとして、幅広い世代向けの雑貨や衣類を扱う店舗が集まっていました。その一部で子供用のおもちゃ売り場が集中していたエリアがあり、それらの店舗がテレビゲームを扱うようになると、自然と「秋葉原化」してオタク通りとなりました。アニメのフィギュアが並ぶ店舗の横に、仏具店が仏像を並べている様子は、秋葉原に似た、許容性の結果としての雑多感があります。専門のブローカーを通して輸入し販売されるオタク向け商品は、日本の1.5倍ほどの値がついているのですが、オタク通りには連日若者たちが目当ての商品を求めて集まっています。

その台北地下街の端には、飲食店が集まり、メイドカフェも数店舗あります。2006年に台北地下街で最初に開業したメイドカフェ「Fatimaid」は、今でも営業中です。4年前に店舗は地上に移転しましたが、開店当時から店内に掲げている「従順」、「禮儀(礼節)」、「用心(心配り)」の文字通り、変わらないきめ細やかな給仕を受けられるので、私も台湾に行くたびにお世話になっています。このメイドカフェの店前には、どうやって入手したのか、JR秋葉原駅の駅名標が目立つように設置されています。秋葉原は「心の故郷」だというメイドカフェのオーナーが、敬愛の意を込めて飾っているそうです。

台湾の若者たちがこれほど秋葉原に親近感と憧れを持っているのに、放っておくのはもったいないことです。生まれたときからインターネットを使える環境にある台湾の若者たちにとって、秋葉原の情報を得ることは、造作もないことでしょう。しかし、ネット上の情報だけでは、秋葉原の実態や魅力は十分には伝えきれません。そこで、台湾の人たちに秋葉原を実際に体験してもらえるような機会を設けようと思い、その打ち合わせをするために、今回台湾に訪問したわけです。

毎年、秋に日本最大のゲーム業界の展示会、東京ゲームショウが開催されます。それに参加するため、台湾から200名ほどのゲームファンが来日するのですが、その機に合わせて、台湾人観光客限定のメイドカフェ体験ツアーを秋葉原で行うことになりました。今回の企画を手始めに、秋葉原の趣味文化を通じて、台湾と日本のつながりを発展させていこうと目論んでいます。

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