打ち出したことの1つに「オーセンティシティ」があった。本物らしさを意味する言葉で、ドラマ「SHOGUN 将軍」のヒットの要因とも重なる。真田をはじめ制作スタッフが口を揃えてオーセンティシティにこだわり抜いたことを強調していることからも裏付けられる。時代背景に合わせた歩き方や座り方、刀の抜き差しなどの所作や美術セットは世界観を作り上げる大事な役割を持つ。きめ細かに徹底化することで作品全体のクオリティも上がるのだ。

1話5000万円から1億円をかける大河ドラマ

ただし、実は地味に製作コストがかかる部分でもある。予算に制限がある場合は追求できず、説得力に欠けた歴史ドラマになりがち。「大河ドラマ」の場合は、1話につき5000万円から1億円をかけ、日本のドラマの中で最も制作費が投じられていることからオーセンティシティを語る価値がある。先の「べらぼう」では浮世絵の版画や画集など、番組に登場する小道具は色に至るまですべて本物そっくりに再現できるよう心がけているという。

前クールに放送された吉高由里子演じる紫式部が主役の『光る君へ』も世界観づくりに長けた作品の1つだろう。「平安時代を舞台に歴史的に正確であることを追求し、信憑性を確保した」と、作品を手がけた内田ゆきプロデューサーが熱弁した。スタジオ内にセットを作り上げた宮廷行事の歌会「曲水の宴」のシーンを例に挙げ、庭園の小川に酒盃を浮かべて和歌を詠み、盃のお酒を飲むという雅さをどのように再現したか説明を続けた。

「古代の絵巻物を頼りにこの風習を確認したところ、盃を運ぶための小舟が必要であることに気づきました。できるだけ正確さを追求したかったので、平安時代の専門家と協力し、儀式の全体像から小道具に至るまで再現性にこだわったシーンの1つでした」

苦労したのは「衣装づくり」

また当時の着物に想像以上に鮮やかな色彩が使われていたことを確認し、衣装づくりは苦労したという。登場人物それぞれの社会的地位や年齢、性格によって衣装デザインを変え、視覚的な美しさを求めた。ストーリーが進むにつれて女性たちの衣装を進化させていったという。

吉高由里子演じる紫式部が主役の『光る君へ』の衣装デザインも「オーセンティシティ」にこだわった
筆者撮影
吉高由里子演じる紫式部が主役の『光る君へ』の衣装デザインも「オーセンティシティ」にこだわった

宮中に仕える前の紫式部の衣装には紫の色使いをあえて使わず、執筆を始める頃になってから、彼女の情熱の強さを表すさまざまな色合いの紫を衣装に取り入れていったのだ。「芸術的観点は『大河ドラマ』に欠かせないものでもあります。長年にわたり大切に守られ、受け継がれてきました」と語る言葉に自信も見えた。