※本稿は、山口亮子『ウンコノミクス』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。
「地雷原」と呼ばれる大阪市民の巨大なゴミ箱
暗くて長いトンネルを抜けると、茶一色の広大な荒地が広がっていた。
トイレから水とともに一瞬で消し去られたものが、流転してたどり着く大地。その広さは390ヘクタール、東京ドーム83個分に相当する。
ここは、大阪市民の出すウンコやゴミでできた人工の島だ。半世紀にわたって、市民が出すゴミや、川や海の底をさらった浚渫土で埋め立てられてきた。巨大な「ゴミ箱」である、だだっ広い土地を前にすると、280万人近い人口を擁する同市の底力を見せつけられたような気になる。
それとともに、ここがいつガス爆発を起こすか分からないことからSNS上で「地雷原」とも揶揄されていることを思い出す。今この瞬間にも起きるかもしれないと考えると、ドライブがいつもより緊張感を帯びたものになった。
大阪市内とは思えない風景
大阪市といえば、人が行きかい活気にあふれ、ややもすると喧しいくらいの街という印象を持ってきた。この島はまさに大阪市内にある。けれども、訪れた2024年9月中旬、通行人はいなかった。景色は全体にくすんで見え、物悲しさを感じる。道路を走るのは、8割方トラックである。
大阪湾に浮かぶ夢洲。ここは、海面の埋め立てが途中までしか進んでいない。広い土地に建物が申し訳程度にポツン、ポツンと佇んでいる。
島内に1軒だけのコンビニエンスストアで、ようやく人と会えた。広漠とした茶色い土地にあって、セブン‐イレブンはさながらオアシスだ。トラックやワゴン車を駐車場に停めて、作業員の男性たちが食べ物を物色している。
入り口の自動ドアに水色の大きなポスターが貼ってあった。
〈くるぞ、万博。〉
でかでかとゴシック体の文字が書かれている。その下に、赤と青の奇抜な色遣いの体に五つの目玉を付けた公式キャラクター「ミャクミャク」が立っている。右のこぶしを握りしめ、ガッツポーズを決めていた。