「あんたは、ママをいじめるために生まれてきた悪魔」
ママはご存じの通り、明るくて、優しくて、いろんな人に思いやりのある行動がとれるから、多くの人に好かれています。だから、そんなママの好きな人にはちゃんと挨拶をしたいと思って、ここに来たのかもしれません。まあ、激しく気分に差があって、難しい人でもあるんですけど……。
話をすると決めた時、私、何を話せばいいんだろうって考えて、嫌なこと、うれしすぎることが沢山ありすぎて、何から話していいのかなーって、今も迷っています。
ただ、お話しする前に、一つ、大前提として、私はママのことをすごく嫌いになったこともあるし、いなくなってほしいと思ったこともあるし、なんで、この人が私のお母さんなんだろうって思ったこともあるということを、覚えていてほしいんです。
「もう、お母さん、ママなんて呼びたくない」と思ったこともあって、それで今は、「さおちゃん」と呼んだりしています。ですけど、今はお母さんとして大好きですし、愛していますし、人としても大好きだと思っています。
私、学校に入る前の小さい頃の記憶って、あまりないんです。さおちゃんが話していると思うのですが、小さい頃の私って、性格が難しかったらしいです。嫌なことがあると、泣き喚いたりしていたそうです。でもこれは、自分の記憶として覚えているんじゃなくて、周り、特にさおちゃんから言われて、多分、私、相当難しい子だったんだろうなあっていう自覚を、最近、明確に持ちました。泣き喚いて幼稚園に行かなかったとか、何度もママから聞かされますから。
私、寝ない子だったらしいですね。
確かに、私を育てることは、とても大変だったと思うんですよ。それは事実だったと思いますが、でも、今でも私、よくママに、「夢ちゃんは、本当にめんどくさかった」とか、「なんで、この子が生まれてきたんだと思った」とか、はっきり言われるんです。
あー、それ、たまんないです。
それは、こんなふうに始まります。私が普通にリビングにいてくつろいでいると、ママがだんだん酔っ払ってきて、突然、昔の話を始めるんです。それって、しょっちゅうなんです。そうして昔の話を始めると、話すうちに過去が甦ってきて、さおちゃんは明らかにイライラが高じてきて、そのうちに怒り出して、その怒りを私にぶつけてくるんです。「ああ、ほんと、寝ない子だった」とか。思い出してくると、激昂して口調も怖くなって、私に怒鳴り散らすんです。
「本当に、めんどくさかったし、夢ちゃん、なんで生まれてきたの? と思ったし、あんたは、ママをいじめるためだけに生まれてきたんだって、ほんと、それしかないって。あんたは、ママをいじめるために生まれてきた悪魔なの!」
耳を塞ぎたい言葉が連発で飛んできて、いつ終わるかもわからない。こうなると、さおちゃん、長いんです。「あーあ、今日は最低の夜が待っていたんだ」って、「今夜も、最悪」と心の中で呟きます。