予算確保を狙った「商品開発ドキュメント」

番組予算の少なさに不満を抱えていた私はある着想をした。

番組を会社登記し、その番組(会社)で商品開発と販売を行なう。そして、商品販売であげた利益を番組制作費に還元する。これならば、編成部にゴマをすって予算を回してもらわずとも自らの力で予算を確保できる。

系列局では「浅草橋ヤング洋品店」としてスタートしたバラエティー番組が「ASAYAN」と名前を変え、オーディション番組として大成功していた。番組は、一般公募でタレント志望の参加者をつのり、オーディションでふるいにかけていく様子を半年から1年がかりで追いかけ、ドキュメンタリーとして放送した。

オーディションから這い上がったタレントが艱難辛苦かんなんしんくを乗り越え、デビューする。視聴者は彼ら彼女らを応援するため、CDを購入する。番組から誕生した「モーニング娘。」や「CHEMISTRY」のデビュー曲は大ヒットした。番組コンテンツ全編がそのまま楽曲やタレントを売るための仕掛けになっているのだ。

店でCDを買う女性
写真=iStock.com/Charday Penn
※写真はイメージです

地上波で1時間まるまる使い、半年以上にわたって放送する露出効果はすさまじい。CM換算すれば信じられない金額になるだろう。

私のアイディアは、この番組の仕掛けを商品開発と販売に利用しようというものだった。番組で商品を開発・製造する様子をドキュメントでたっぷり見せてから、一般発売する。「ASAYAN」の商品版だ。

気難しい大御所へのお伺い

テレビ上方上層部と古本興業との相談で、メインMCに大御所落語家・柱六枝師匠を使うことは早々に決まった。また、六枝師匠のご指名で、勢いのある飯山愛さんをアシスタントに起用することも決定。リクエストどおり、飯山愛さんがブッキングできたことを伝えると、「愛ちゃんは、ええで〜」と六枝師匠もご機嫌だった。

残すは、もう1人進行を補佐する男性タレントだ。大阪ローカルの番組で制作費が限られており、大阪の芸人から数名をピックアップする。ただ、六枝師匠ほどの大物になると、こちらで一方的にキャスティングするわけにもいかない。

意見をうかがいに、古本興業のなんばグランド花月の楽屋に師匠を尋ねた。このとき、私は六枝師匠と初対面であった。若き日の明石家いわしが六枝師匠にいじめられた話は耳にしていたし、知り合いの芸人からも六枝師匠の気難しさを聞いていたので緊張しながら楽屋に入る。

こちらで携えてきた候補の名前をあげてみる。

「男性アシスタントですが、師匠と同門の大枝さんを候補に考えております。いかがでしょうか?」

六枝師匠は目も合わさずに聞いている。少し間が空く。

「お〜い、お茶を替えてくれ」

こちらには目もくれず、弟子にそう呼びかける。これは違うということなのだろうか。なんとなく違和感を覚えて次の名前をあげる。

「それでは、漫才師の大平ロクローさんでしたら、どうでしょうか?」

考えているのか、考えていないのか、反応はない。また弟子に向かって言う。

「おい、ちょっと暑いな。楽屋のドア開けてくれ」

やっぱりダメということなのだろうか。次の名前をあげる。

「新喜劇の岩田清君はどうですか?」

さきほど弟子が淹れたお茶に少しだけ口をつけると、「羽織とってくれるか?」……。こんな感じでこちらが持参した候補タレントにはすべて手応えがない。