日本の公立小学校に通う1年生と6年生の学校生活を春夏秋冬にわたって描いた『小学校~それは小さな社会~』とその短編バージョン。山崎エマ監督によるこのドキュメンタリー映画によって、世界各国で「日本の小学生はすごい」と注目された。その理由は――。

『小学校~それは小さな社会~』の短編版でオスカー候補に

第97回アカデミー賞授賞式(アメリカ現地時間3月2日)では、ドキュメンタリー映画賞に日本の作品が2作もノミネートされ、話題になった。1つは性的暴行被害を訴えた伊藤詩織監督の長編『Black Box Diaries』(山崎エマ監督が編集・製作を担当)。もう1つは、東京都内の公立小学校の教育現場を取材した短編『Instruments of a Beating Heart』だ。

アカデミー賞授賞式会場での山崎エマ監督とあやめちゃん、2025年3月2日、アメリカ
山崎監督提供
アカデミー賞授賞式会場での山崎エマ監督とあやめちゃん、2025年3月2日、アメリカ

『Instruments of a Beating Heart』は、山崎エマ監督が小学校を約1年間150日、のべ7000時間取材した長編ドキュメンタリー『小学校~それは小さな社会~』(劇場公開中)から生まれた短縮版。長編は世界中で上映され、ロングランヒットを記録。小学生たちがみずから掃除や給食の配膳をする日本の公立学校の“普通”を映し出し、日本人の集団行動の様子にも海外から高い関心が集まった。

アメリカでは「アメリカでは子供たちは(学校の)掃除をしない。これは『自分たちのことを自分でやる』ということを学ぶための最高の見本だ」、フィンランドでは「コミュニティづくりの教科書だ」、ギリシャでは「日本の子どもたちの責任感がすごい。小さな子どもたちを信頼する先生もすごい」と感嘆と驚きの声が寄せられた。

日英にルーツを持ち、ニューヨーク大学で映画制作を学んだ

今回のノミネートにより、初めて山崎エマ監督を知ったという人もいるだろう。父親がイギリス人、母親が日本人で、19歳で渡米し、日本とアメリカの二拠点でドキュメンタリー作品を撮り続けているという山崎監督に、アカデミー賞授賞式の様子や作品に込めた思いなどを聞いた。

――短編には次年度の入学式で「歓喜の歌」を披露することになった1年生たちの演奏者オーディションから練習風景、本番までが収められています。主人公は、大太鼓をやりたいと手を挙げたあやめさん。今回は、彼女と一緒にアカデミー賞授賞式に出て、いかがでしたか。

【山崎エマ(以下 山崎)】アカデミー賞というアメリカの映画界トップの舞台は、普段コツコツと日本でドキュメンタリー制作をしている自分からは全く想像ができないようなキラキラした場所でした。今、小学5年生になったあやめちゃんのアメリカ行きは本人にとっても親御さんにとっても大きな決断だったと思いますが、最終日にあやめちゃんから「こんなすてきなところに連れてきてくれてありがとう」という言葉をかけてもらって。残念ながら、賞は獲得できませんでしたが、大きな価値をもらったような気持ちでした。

――海外ではこの作品に対してどんな反応がありましたか。

【山崎】欧米では特に「自国の教育のあり方と全く違う」という反応が多かったです。日本の小学校のように、自分が属している集団に対する責任感や役割、プレッシャーがあるのは、日本独自のものだと思うんですね。欧米は個人主義なので、他の人と違うことをやって自分の強みや個性を見つけていく教育で、逆の入口からスタートする良さや違いを感じたようです。

The New York Times「Instruments of a Beating Heart An Oscar-Nominated Op-Doc」