外来種が今の世界を作った
【星野】先生の研究にもあるように、「日本人のDNAの9割は外来」という話を聞くと、「私たちは結局、外から来た人々の子孫ばかりなのか」と思ってしまいます。
【篠田】実際、日本列島だけでなく世界各地がそうなんです。ヨーロッパ人だって狩猟採集民、農耕民、牧畜民などの集団が混ざり合い、現在に至っています。
時間スパンを長く取れば、もともとアフリカで生まれたホモ・サピエンスが全球的に拡散した歴史ですから、ある時代を境に外から来た人を「外来種」と呼んだところで、つまるところ境目は恣意的なんですよ。
ただ、私たち日本列島の視点で言えば、縄文人が2万~3万年以上かけて育んできた文化に、農耕を中心にした渡来民が3000年前ごろ流入し、圧倒的に人口を増やしたことが今のDNA構成を生み出した──それを「外来DNAが9割」と表現しているわけです。
【星野】篠田先生は別の著書で「1万年前の狩猟採集民のほうが脳容量が大きかった」とも書かれていますよね。それは現代人より優れていたということなのでしょうか。
狩猟採集民のほうが脳が大きかったワケ
【篠田】脳のサイズだけで知的水準を測るのは難しいですが、狩猟採集を主とする社会では一人ひとりが幅広い知識や技能を身につけないと生きていけませんでした。自然界の動植物を見極め、危険を回避し、獲物を仕留める道具を工夫する。現代人ならAIに頼ったり、専門家に任せたりしてやり過ごせることも、当時はすべて自力だったわけです。
ただホモ・サピエンスとしての認知能力は2万~3万年前から大きく変化していないとされていますし、文明社会では逆に分業と協力で高度な技術や科学を発展させてきた。昔が賢い、今がバカという話にはならないということですね。
【星野】今後、日本人の起源について研究がさらに深まれば、どんな新しい景色が見えてくるでしょう?
【篠田】やはり古代DNAの解析精度が格段に上がっているので、弥生や古墳はもちろん、中世~近世の遺骨解析が進むと、「実はこの時代にも意外な渡来があった」「ここには北方系が紛れ込んでいる」など、これまで想像しなかった事実が浮かび上がると思います。
朝鮮半島側や中国東北部などの古代DNAとも比較すれば、日本列島に入ってきた集団の具体的な系統がかなりはっきりするでしょう。二重構造モデルがどう細分化されていくのか。そこにこそ、私が今いちばん期待している研究の発展があります。