第1の留意点は、調査のタイミングである。今回の調査が行われたのは、就職活動がスタートしたばかりの12月から年明けに行われたもので、学生の就活における企業研究が殆ど行われていない。このタイミングでは、学生は殆ど企業について情報が無いので自分のなじみがある有名企業にチェックボックスをつける他ない。つまり、ある種、「憧れ企業」に印がつきやすい。実は、この手の調査は就活がある程度進んだタイミングでもう1度行われるのだが、ニュースバリューが低いため殆ど報道されない。

第2の留意点は、回答方法である。取り上げた調査では、希望企業を上位5位まで選択することになっている。数百もの企業から会社を探し出して5つを選ぶのは実はかなり面倒な作業である。この方法だと、どの学生も選ぶような最大公約数的な企業の方が、印がつきやすい。

第3の留意点は、調査の母集団である。調査を行っている就職サイトに登録して、票数に大きく貢献しているのは、あまり就職活動に対してリテラシーが高くない層である。また、シェアが低いサイトであればあるほどたくさんのエントリーをせざるを得ないと考えている学生層の比率が高い。つまり研究室経由で就活が決まるような理系男子上位校層の登録は少なく、文系女子中堅校層の登録が多い。そうなると、大量の採用を行い、様々な大学から採用する企業の方が票数を集めやすい。実際、商社の中でも資源で高業績だが一般職採用が少なそうな所は順位が低く、消費財に近いところ、一般職採用が多そうな所、が上位である。昔、私がマッキンゼーでリクルーティングをしていたころに世界中の状況をリサーチしたことがあるのだが、英フィナンシャル・タイムズの調査で全ヨーロッパ大卒者での人気第1位は、当時、もちろんマッキンゼーであったが、それは各国の上位大学を対象にした調査だったからである。

第4の留意点は、学生の意向は彼らが接しているメディアに左右されやすいということである。今回、自動車メーカーやエレクトロニクスメーカーが軒並み順位を落としているのは、一般ニュースでも彼らの苦境が報じられているからであり、通信業が順位を落としているのも競争の苛烈感が学生でも実感できるからである。一方、学生に絡んだCSRに熱心な会社は、企業規模にかかわらず上位にある(丸紅、ロッテなど)。また、やや業界事情を話せば、急速に順位を上げた会社は、採用プロモーションを大きく行った結果のものもある。種を明かせば、この調査は、採用広告ビジネスのマーケティング、効果測定といったセールス資料としての意味合いもあるのだ。