「理性的な判断」は「知能のスコア」と強くは相関していない

「私はそんな浅はかな判断はしない」と思われている人もいるかもしれません。確かに、人間は賢さにバラつきがあります。賢さ=認知能力に差があるのは事実です。誰もが認知バイアスの罠にはまるとは言い切れないという意見もわかります。

実際、認知能力と認知バイアスの関係を調べた人たちがいます。キース・E・スタノヴィッチとリチャード・ウェストは認知能力が高ければ、認知バイアスは起きないのではないかという仮説を立てました。

具体的には認知能力が高い人ほど合理的に考えられるのでシステム1に依存せず、システム2を働かせ、認知能力の低い人ほどシステム1に陥って、認知バイアスに左右されるのではないかと考えました。個人の認知の差が合理的判断に与える影響について関心を持ち、認知能力の違いが、物事の思考や推論、意思決定に与える影響を、実験をして明らかにしています。

その結果、認知バイアスは認知能力と負の相関関係があって、認知能力が高い人ほどバイアスを回避できる傾向が一定程度は見られました。賢ければ認知バイアスに引っかかりにくい傾向があるにはあったのです。ただ、他の実験では高い知能を持つ人々でも、しばしば直感的に考えてしまい、理性的な判断が知能のスコアと強くは相関していないことも示されています。

陰謀論やフェイクニュースに引っかかる理由

たとえば、SNSの普及以降、世の中にはいろいろな陰謀論がはびこるような状況になっています。陰謀論とまで呼べなくても、政治や科学に関するフェイクニュースが毎日のように拡散されています。

スマホを使用する人たち
写真=iStock.com/ViewApart
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みなさんの中には自分には無縁と思われている人もいるでしょう。「陰謀論やフェイクニュースに引っかかるのは、思慮に欠け、政治的に偏った人であり、教育や知性の問題」と感じているかもしれませんが、これは全くの誤りです。

陰謀論やフェイクニュースは確証バイアスのひとつのあらわれです。人は自分の意見の裏づけになる情報は無批判に受け入れますが、持論と対立する情報に対しては無視しようとするのが確証バイアスです。推論のミスを引き起こす原因のひとつです。

ソーシャルメディアのユーザーは、自分と興味・関心が似通った人の投稿をよく読みます。それらは自分の意見と一致しやすいので、自分の意見が肯定的に強化されます。判断を誤っていると誤りが増幅されてしまう可能性があるのです。自分の信念に合致するようなエビデンスだけを探し、評価し、仮説を検証するわけですから修正の術がありません。

スタノヴィッチなどの研究ではこのバイアスは知性とはほぼ無関係であることが示されています。ですから、大学の先生など知識階級の人がSNSで荒唐無稽なことを言い出してもそれはそれほどおかしな話ではないのです。