なぜクレーンゲームはやめられないのか
他にもシステム1に陥って冷静な判断ができない例を紹介しましょう。
私たちは将来の行動を考えるときに、回収不能な過去のコストにこだわり過ぎて誤った選択をしてしまうことがあります。たとえば、誰もが、面白くない映画でもチケット代がもったいないから最後まで見た経験が一度はあるのではないでしょうか。
見始めて、「これ、時間の無駄だな」と思っても、チケット代を払っているので、最後まで見てしまう。チケット代は映画館のシステム上、どう頑張っても戻ってきません。ですから、つまらないと判断した時点で映画館から退出した方が時間は無駄にならず、合理的な判断といえます。
人によっては、クレーンゲームを何回やっても景品が取れないのにやめられなかった経験もあるかもしれません。「もう1000円も使っているし、ここまでやったら何かを取るまでやめられない」と後に引けなくなって、さらに1000円以上使ってしまう。クレーンゲームも、今まで投資したお金は戻ってこないわけですから、何度かやって取れない時点で諦めた方が時間もお金も無駄にならず合理的です。
「損切りしてやめる判断」ができずにズルズルと…
つまらない映画のチケット代や景品も取れずにクレーンゲームに投じたお金のように、支出されて回収不可能なコストをサンクコスト(埋没コスト)と呼びます。競馬や競輪などギャンブルで外し続けてもやめられず、予想を外すほど熱くなり、財布が空っぽになるまで続けてしまうのもサンクコストが膨らんでしまっている状況です。
このコストに基づいて意思決定すると経済的合理性に欠ける傾向にあります。すでにその時点では回収不可能なわけですから、こだわってもさらに損をする可能性だけが高まります。システム2を使えば、「今やめることで損失を最小に抑えられる」とわかるはずです。
回収不可能なものに関しては諦めて損切りする判断が合理的です。ただ、人間は投資した分を取り返したいという気持ちが強く働くため、損切りしてやめる決断ができずにズルズルと続けてしまいます。