怒りで生まれる苦悩は長くつづく

財産との比較も興味深い。財産を失うことは打撃には違いないし、国家レベルで見れば財政危機ということになる。ただ、財政は立て直すことができても国家が崩壊してしまえばそれもままならないのだから、怒りによって亡国を招いてはならないというのがカウティリヤの考えということになる。

笠井亮平『『実利論』 古代インド「最強の戦略書」』(文春新書)
笠井亮平『『実利論』 古代インド「最強の戦略書」』(文春新書)

「有害な連中」の具体例については、盗賊や賭博者はまだしも、猟師や歌手、演奏者は現代の感覚からすると違和感を覚える。おそらく王の立場として、狩猟や歌舞音曲のような遊興にどっぷりとかってはならぬということなのだろう。同時に、このような記述があること自体、そうした魅力に抗うのが難しかったことを示している。

ただ、それでも関係を断つと決意すれば「交際は瞬時に解消され得る」が、比較対象になっている「苦悩との結びつき」はそうはいかないという点は重要だ。