楽しみながら理解を深め、繋がりを保つ社会に
【武政】最後に、読者へのメッセージをお願いします。
【筧】自分のこととして捉えてほしいですね。人間の脳がどう働き、どんなトラブルを起こすのか――それ自体が興味深いテーマです。実際、私の講演を聞いてくださった方々からは「面白かった」「楽しかった」という感想をいただくことが多い。もっと好奇心を持って、楽しみながら理解を深めていける社会になればいいなと思います。
【内田】認知症を老化の一部として受け止めることが大切です。よく「がんよりも認知症の方がなりたくない」という声を聞きます。それほど認知症へのネガティブなイメージが強い。でも実際には、筋力低下と同じように自然な変化の一つとして受け止めることができる。
筋力が弱くなった時に杖があるように、認知機能の変化にも「記憶の杖」のような助けを借りながら歩んでいける。なりたくない気持ちはわかります。でも、年を取ってなるのはある意味自然なこと。その中でどう工夫して、今の生活を続けていくか。それを一緒に考えていけたらと思います。
大切なのは人との繋がりを保ち続けること。失敗が増えてくると引きこもりがちになり、それが認知機能の低下を加速させてしまう。むしろ、認知症をきっかけに新しい繋がりができることもある。診断を受けても、工夫をしながら今までの生活を続けていく。そんな希望を持って向き合っていただきたいと思います。
内田 直樹(うちだ・なおき)
医療法人すずらん会たろうクリニック院長、認知症専門医
1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。医学博士。2010年より福岡大学医学部精神医学教室講師。福岡大学病院で医局長、外来医長を務めたのち、2015年より医療法人すずらん会たろうクリニック院長。編著に『認知症プライマリケアまるごとガイド』(中央法規)、著書に『早合点認知症』(サンマーク出版)がある。
筧 裕介(かけい・ゆうすけ)
NPO法人イシュープラスデザイン 代表
1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)。慶應義塾大学大学院特任教授。2008年ソーシャルデザインプロジェクトissue+designを設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。2017年より認知症未来共創ハブの設立メンバーとして、認知症のある方が暮らしやすい社会づくりの活動に取り組む。 著書に『人口減少×デザイン』(英知出版)、『持続可能な地域のつくりかた』(英知出版)、『認知症世界の歩き方』(ライツ社)などがある。
聞き手・構成=武政秀明/Sunmark Web編集長
編集=サンマーク出版 Sunmark Web編集部