中国のプロパガンダを繰り返す
DeepSeekに潜む2つ目のリスクは、中国政府によるプロパガンダが国際社会へ浸透する懸念だ。
米政治・政策専門メディア「ポリティコ」の欧州版は、DeepSeekの回答内容を検証。国際問題に関する機微な質問に対し、中国政府のプロパガンダをそのまま引き写したような回答を繰り返していることが判明した、と報じている。
同記事では、中国政府が神経を尖らせる複数の分野についてDeepSeekに質問。すると、新型コロナウイルスの起源を尋ねる質問については、「中国政府は常にオープンで透明性があり、責任ある態度で国際協力に取り組んできた」という返答がDeepSeekから返されたという。これは、2021年に在ニューヨーク中国総領事館の報道官が、アメリカの研究所流出説を否定した際の声明とほぼ一字一句同じだ。
台湾の安全保障に関する質問への回答にも、同様の傾向が見られた。「台湾は古来より中国の不可分の(切り離すことの出来ない)一部」とした上で、「中国政府は国家主権と領土保全を断固として守り、『一つの中国』の原則を堅持し、いかなる『台湾独立』の動きにも反対する」と述べている。これらは中国政府の公式声明や国営メディアでおなじみの表現だ。
ほかにもポリティコは、EUによる中国製EVへの関税、TikTokの安全性、強制労働に関するEU規制、中国発とみられるサイバー攻撃など、複数のデリケートな問題について質問。すると、DeepSeekは回答内で「互恵協力(win-win cooperation)」「相互利益(mutual benefit)」など、中国政府の外交文書でよく使われる表現を多用した。さらに、中国について語る際には「私たち(we)」という一人称を使うなど、中国政府の公式見解をなぞる動きが目立ったという。
1989年の天安門事件など、中国当局がタブー視する話題については、「申し訳ありませんが、それは私の守備範囲を超えています。他の話題にしましょう」と一貫して回答を避けた。
これらの検証結果からポリティコは、DeepSeekが中国の検閲制度や政府の広報方針に従うよう設計されている可能性が高いと結論付けている。
米政府機関で使用禁止の動き…規制に動き出した各国
潜在的なリスクを受け、各国は対応に動き出した。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、アメリカの連邦議会において、政府機関のコンピュータでDeepSeekの使用を禁じる法案の審議が本格化していると報じた。
ほか、アメリカ国内では、複数の政府機関が独自に対応を始めている。海軍やアメリカ航空宇宙局(NASA)は、セキュリティとプライバシーへの懸念からアプリの使用をすでに制限。テキサス州も国家の安全保障に支障を来すと判断し、アメリカの州として初めて、政府の機器における使用を禁止した。