百家争鳴の「フジテレビ事件」

元タレントの中居正広(文中敬称略)による女性とのトラブルに端を発して大炎上した「フジテレビ事件」(ネット上では「フジテレビ不適切接待疑惑問題」と表記されているが、あえて「事件」と記したい)は、メディア界全体を巻き込んだ一大問題に発展した。

フジテレビ本社ビル
撮影=石塚雅人

芸能界とメディアという注目を浴びやすい舞台で、中居正広、フジテレビ、週刊文春……と著名な役者がそろい、トルブルと称する性接待、9000万円示談話、女子アナ上納疑惑、中居芸能界引退、スポンサーのCM撤退、フジテレビ社長・会長辞任、週刊文春の第一報誤報、10時間超のやり直し記者会見、「日枝天皇」の経営責任追及……と、びっくりストーリーが次々に演じられ、否応なく世間の耳目を集めることとなった。

ドラマは今なお進行中で、どのようなエンディングになるかは見通せず、観客は当分、目が離せそうにない。

そこでは、「文春砲」などにより表面化した接待疑惑やフジテレビが内包するガバナンス不信など、さまざまな論点が浮上。新聞・テレビの既存メディア、あまたのネットメディア、各界の識者から自称ジャーナリストまで、さまざまな角度から発する多種多様な見解や解説、主張、自説が入り乱れ、さらには観客までSNSなどで口々に意見や感想を発信し、まさに「百家争鳴」。「一億総評論家」のお祭り騒ぎになっている。

最重要テーマはフジテレビの企業風土と今後

ヒートアップする一方の「フジテレビ事件」だが、少し冷静になって整理してみたい。

あらためて多岐にわたる論点を整理してみると、

①発端となった中居正広のトラブルの事実関係
②フジテレビのトラブル把握後の対応の妥当性
③フジテレビの記者会見の失態
④フジテレビ経営陣の責任
⑤フジテレビの日枝取締役相談役の動向
⑥フジテレビのガバナンスの実情
⑦スポンサーへの対応
⑧放送界への影響
⑨監督官庁の総務省との距離感
⑩信頼回復のための方策

などが挙げられる。

それぞれの論点について、すでに多くの記事や解説が展開されているので、本稿では、もっとも重要なテーマであるフジテレビの企業風土と今後のありようについて考えてみたい。

見解が分かれる「ガバナンス不全」

まず、留意しておきたいのは、フジテレビは、現時点では刑法はもちろん放送法や会社法など法的問題を犯してはいないということだ。つまり、社会秩序を乱すような犯罪性はなく、あくまで道義的責任や社会的責任が問われているのである。

次に、「ガバナンス」というキーワードだが、安易な活用には注意を要する。一般には企業統治と解されているが、山田健太・専修大教授は「ガバナンスにコンプライアンス、いずれも典型的な『つるつる言葉』だ。……プラスチックワードとも称され、わかった気になるけども中身はよくわからない用語を指す」と指摘している(2月2日付東京新聞)。つまり、使う人によって意味合いが異なり、それぞれに都合のいいように使われかねないリスクをはらんでいる。