慶應合格に母親から言われたひと言
高校時代のえぐざま氏はすでに、進路指導の先生をして「あいつに聞けばいろんな大学受験のルートがわかる」と言わしめるほどのオタクぶりを発揮していたという。他の追随を許さない受験に関連する知識。最も近くでみてきた両親は、40代で掴んだ慶應義塾大学合格をどう受け止めたのか。
「両親からは一貫して、『あなたが好きなことをやりなさい』と言われてきました。ただ、いざ合格して入学することを報告すると、少し戸惑った様子を見せていましたね。
でも近頃は慣れたのか、母は『慶應のパーカーを送って』なんてリクエストしてきたので、買って送りました。また父は慶應の授業に興味があるらしく、特に音楽に関連する授業に強く惹かれるようです。『この授業はどんなことを習うんだ?』なんて言っていますね」
慶應義塾大学といえば、偏差値もさることながら、“お坊ちゃんお嬢さん”が多く在籍することで知られる。かつて世帯年収300万円で暮らしたえぐざま氏にとって、彼らはどう映るのだろう。
「正直、キラキラしていて眩しいなと思う瞬間はあります。ドラマからでてきたのかと思うような美女がキャンパスを歩いていますしね。ただ、自分が社会人としてそれなりに収入を得たからか、卑屈には思わなくなりましたね。それよりも驚いたのは、塾生たちの要領の良さ、手際の良さです。きっと地頭がよく、素直な子たちなんだろうなと思って、ずっと年下の彼らに頼りがいを感じるときさえあります」
健気さとおかしみと狂気と
えぐざま氏には悲壮感がまるでない。貧困家庭で育った話も学歴に対するコンプレックスも、その瞬間から過去のこととして霧散し、極めて楽しそうに振り返る。一般に、日常において学歴の話題は避けられる。だがえぐざま氏にとっては、自慢の道具などではなく、全力を傾注した証なのだろう。
学歴を鼻にかける小利口な人間は煙たいが、学歴に人生を捧げた熱量には誰もが魅了される。それはまるでスポーツかなにかに打ち込んだ青春の1ページのように、鮮やかさを帯びる。
冒険する必要などとうにない中年男性が学歴に「一生懸命」をぶつける健気さとおかしみとわずかな狂気に、思いがけず自らの本気を問われている気がして背筋が伸びる。