「会える遊び仲間」というリソース
秋葉原には多くのTCGショップがあり、冒頭で紹介した秋葉原駅構内の店舗の他にも、現在20数店舗が営業しています。そのほとんどの店舗では、客同士がゲームを楽しめる場所を提供しています。秋葉原のTCGショップに集まる客層は20代前半くらいの若者が多いのですが、雀荘と違って店舗内は完全禁煙です。大切なカードがタバコの火で燃えてしまっては大変ですから。
TCGショップでは大概、店内で少額の商品でも購入すると、無料で時間無制限にゲーム用の場所が利用できます。もちろん入り浸りになる客も現れますが、それでよいのです。なぜなら、TCGは対戦相手がいないと独りでは遊べません。遊び仲間が必要なのです。いかに遊び仲間をつくる環境を提供するかが、競争が激しい秋葉原の店舗では重要な戦略になります。初心者でも楽しめるように店員がルールを解説しながら対戦相手をしたり、定期的にイベントや大会を開催して客同士の交流を図ったり、ゲームに熱中しすぎてトラブルを起こさないように守るべきマナーを指導するなど、さまざまな工夫が見受けられます。そのおかげで、TCGは今や秋葉原の代表的な趣味文化の1つになりました。
ところで、カードの販売金額で今や年間1000億円を突破したTCGの市場ですが、どうして「紙切れ」がこんなにお金を生み出すのでしょうか。人気が高いTCGに登場するキャラクターは、アニメの中で活躍し、マンガの連載にも登場します。関連グッズも販売され、ファンイベントやゲーム大会も全国で開催されます。つまり1つのコンテンツをさまざまなメディアで展開して相乗効果を生み出す最近のコンテンツビジネスの手法が、TCGのビジネスにも使われているのです。
また、TCGの中には、既存のアニメやゲームのキャラクターを絵柄に使用したものもあります。ゲームのルールは変わらず、しかも、元のアニメやゲームの世界観を壊さないように工夫されているので、人気作品が生まれるたびに、カードの種類も増えて収集する楽しみも生まれます。これは日本が得意とする魅力あるキャラクターを上手く活用した版権ビジネスと言えるでしょう。
それでは、これからのTCGのビジネスはどうなるでしょうか。TCGと同様に仲間とのやりとりがおもしろい最近流行のソーシャルゲームと、どのように融合あるいは差別化していくかが、おそらく重要な鍵になるでしょう。しかし、ソーシャルゲームがネット上の仮想空間でのやりとりであるのに対して、TCGは「会える遊び仲間」とのリアルなコミュニケーションを楽しめることが大きな強みなのです。平日の夜でも仕事や学校帰りに秋葉原のTCGショップに集い、見知らぬ者同士でゲームを楽しんでいる若者たちを眺めていると、TCGは遊び仲間を見つける道具であり、TCGショップはその機会を提供するビジネスとしてこれからも活躍してほしいと思います。
(次回のお題は「免税店」。4月16日[火]更新予定)