私がいつまでも勉強する理由

私がアレンジする旅行だから、見学先にしても会える相手のレベルにしても一味違う。マレーシアに行けばマハティール元首相が出てくるし、インドに行けばラタン・タタ(インド最大の企業グループであるタタ財閥の会長)が出てくる。

現場では私がつきっきりで解説をするし、通訳として質問の受け答えもするから、理解の度合いが全然違う。

昨秋のスイス旅行でも参加者は皆、大いに学ぶところがあったと感激してくれた。私自身、スイスは何度も訪れているし、MIT時代のルームメイトでマッキンゼーの同僚でもあったハンス・ヴィドマーがスイス人だったから、ピンからキリまでスイスのことはよく知っている。それを前面に押し出した旅行だったから、「ああ、強い国家というのはこうやってつくるのか」、「日本がダメになったのはこれがないからだ」と、改めて説明する必要がないぐらいに、それぞれ認識を変えて日本に戻ってきた。

私にとっても向研会は非常に重要な活動である。一つは現役の経営者との接点が定期的に持てること。夜には酒を酌み交わしながら意見交換をしたりするのだが、これは大いに刺激になる。

毎月テーマが異なる勉強会なので、それに向けて何カ月もかけて情報を集めて分析し、資料を作成しなければならない。コンテンツ屋として下手なコンテンツは出せない。一定のレベルをキープしなければならないという向研会のプレッシャーがいつも付いて回る。これがいいのである。

大前研一がなぜいつまでも勉強しているかといえば、理由は2つしかない。1つは向研会で、366人の経営者に「なるほど」と言ってもらわなければ困るから。

もう1つは毎週日曜日の夜にCSとブロードバンドで放送している「大前研一ライブ」だ。一週間に起こった政治、経済、および経営の問題について、毎週2時間、原稿も見ないで解説する。そして毎週、私が出した宿題のケーススタディについて、私自身の考えを述べる。この全世界で見れるライブ放送のために一日500くらいの記事を読み、一週間で3500にもなる記事の中から25くらいのテーマを選んで解説する。解説と言うより私の「読み」を伝える。そのためには日々頭をブラッシュアップしていないと絶対にこなせない。もう15年近く毎週やっているが、古希を迎えた今となってはアルツハイマー防止の為にもこれは続けていかなくてはならない、と思っている。

向研会のメンバーは年会費でこれが全部見られるようになっている。学生や塾生だけではなく、経営者にも見てもらっているのだから、どこまでも手は抜けないのだ。

■向研会
http://www.bbt757.com/kokenkai/

(次回は「人を創る仕事[4]。4月22日更新予定)

(小川 剛=インタビュー・構成)