そもそも「かぜ」は病名ではない
その理由は、医薬品メーカーの不祥事などによる業務停止処分が発端といわれているが、それだけでなく、そもそもの医療費抑制政策としての薬価切り下げや原材料費の高騰によりメーカーが利益率の低い医薬品の増産をためらうといった構造的な問題があるとされる。こうした背景のもと急速に需要が高まれば、当然ながらユーザーすべてに十分な医薬品は供給できなくなる。
じっさい今回のインフルエンザとコロナの大流行で、多くの人がその当事者となっていることだろう。「かぜ」を引いたからと、かかりつけ医にいつも処方される薬を頼んでも、「欠品なんですよ」と断られたり、代替品を出されたりという経験をした人もいるのではなかろうか。
ちなみに私がかぜに「」を付すのは、かぜとは病名ではなく、鼻からのどといった上気道から、ときに下気道とよばれる気管支に急性の炎症をおよぼす疾患の総称、「かぜ症候群」だからである。したがって医師による「かぜ」との診断は、症状や診察所見から「かぜ以外の疾患」が考えにくく除外されたときに、はじめて下されるものだ。医師が「診断はかぜです」と断言や明言せずに「おそらくかぜでしょうね」と濁した表現で“診断”を患者さんに伝えるのは、このためだ。
「かぜを早く治す薬」は存在しない
その意味では「かぜ」の診断は医師でさえ不確かなものなのだが、たびたび患者さんから「かぜ薬をください」と求められることがある。こうした患者さんが求めている「かぜ薬」とは「かぜを早く治す薬」であろうと推察されるが、かりに診断が「かぜ」で間違いないとしても、そもそもそのような特効薬は存在しない。これは昨今の薬不足の状況ではとくに、すべての人で共有されねばならない「事実」だ。
毎年冬になるとテレビには各製薬会社からさまざまな総合感冒薬のCMが流されるが、いまだに「かぜには早めの……」であるとか「速攻……アタック」といった、早く飲めばかぜを早く治せるやに思わせるキャッチコピーが溢れている。これらの“誇大広告”、いや医師からすればかなり怪しい広告がこうした「かぜを治す薬が存在する」との誤解を生みだし続けている最大の原因だと私は思っている。
そしてこのような宣伝に誘導されて市販薬を買って飲んではみたものの、症状が治まらずに受診される人も少なくない。こうした人は「市販薬で治そうと思ったのですが、やっぱり医師の処方薬でないと治らないと思って」と医療機関を訪れる。
一方で「いやいや、かぜ薬は治すものではなくて、症状を緩和するものでしょう。それくらいは知っているよ」という人も、最近は少しずつ増えてきた。しかしこうした人でも、「市販薬ではなかなか効かないので」と医療機関を訪れる。