なぜ乗算記号には「×」「・」「*」があるのか

【西成先生】わからない数をxやyやzで表すことが増える中学数学では、たとえば「3×y」の「×」を省略して、「3y」と書くスタイルを覚えます。さらに高校に入ると、「『×』じゃなくて『・』を使え」といわれたりします(笑)。数学者も乗算記号は基本的に省略できるところは省略し、書かないといけないときは「・」を使う人が多いです。

【郷さん】だったら最初から「・」を教えればいいのに……。

【西成先生】私もそんな気がしています(笑)。もちろん「×」派の先生もいますけどね。複雑な式の中に「×」があると、「掛けろぉぉぉ!」って感じで目立つんですよ。ちなみに高校で理系の生徒が習う「ベクトル」という世界では、「×」と「・」はそれぞれ明確に使い分けされるので、「×」と「・」はまったく同じものといい切ることができないのがもどかしいところです。

【郷さん】しかも、エクセルとかプログラミングだと、掛け算の命令は「*(アスタリスク)」ですよね?

女の子が黒板に九九を書く
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【西成先生】そうそう。「どんだけバリエーション豊富やねん」という話です。「*」は昔の数学者の一部で使われていたそうです。

【郷さん】なんですか……この統一されていない感じは。

【西成先生】まあ、数学が完成された学問ではないからです。書き方も進化するし、計算のテクニックも進化するし、理論も進化する。あと、リアルな話で派閥対立みたいなこともあるわけですよ。「=」が広まったのはニュートンやライプニッツの影響が大きいのですが、イギリス人のニュートンは乗算記号に「×」を使っていました。でも当時、彼のライバルであったドイツ人のライプニッツは「・」を使っていました。

ニュートンとライプニッツが残したもの

【西成先生】結果的に科学者としての知名度ではニュートンの圧勝でしたが、ライプニッツは記号の表記のしかたにすごくこだわった人で、その影響力はいまの数学界にも色濃く残っているんです。ちなみにライプニッツが「・」を使った理由は、「xと×の区別がつかないから」だったそうです。

【郷さん】納得のいく理由(笑)。

【西成先生】非常にドイツ人らしい合理的な考え方ですよね。ちなみにドイツの小学生はみんな「・」を使っています。ということで、いよいよ九九を学ぶときがやってきました。とはいっても完全に暗記ものなので、教えることは特にありません。多くの小学生にとって人生で最初に体験する詰め込み教育かもしれません(笑)。

【郷さん】そういえば、九九で思い出しましたけど、積が1ケタの場合だけ「が」がつくんですよね。「変な日本語だなぁ」と思いながら覚えた記憶があります。

【西成先生】正確な起源はわからないですけど、そろばんで掛け算をするときに「が」をつけることで1ケタの数字だとわかりやすくしたのかもしれません。でもおっしゃる通り、積が10以上のときは「が」も「は」もつきません。