「きみはぁ、ぼくのぉ、しんゆうだ!」

数時間が過ぎる頃には、みんなすっかりくつろいでいた。思いつくままに話し、ときに会話に割り込みながら互いにおしゃべりを楽しんだ。そのなかで1人、かなりリラックスしている人がいた。もっと率直にいえば、リラックスしすぎて、まわりから浮いていた。この男性をピェテルと呼ぼう。

ピェテルは、隣の男性に寄り添うようにテーブルに身を乗りだした。そして、その男性が親友で、彼のことが大好きなんだ、と繰り返した。声も身ぶりも大きかった。ピェテルが腕をばたつかせたり振りまわしたりするので、あやうくグラスが床に落ちそうになった。

彼はグラスをぶら下げるように持つと、がなり立てた。「きみはぁ、ぼくのぉ、しんゆうだ! ぼくはぁ、きみのぉ何もかもが、だぁいすきだ。これからもぉ、土曜の夜はぁ、みぃんなで集まろう。ここにいるみんなにかんぱーい!」

さらに数時間が過ぎ、私たちは互いにすっかり打ち解けていた。仕事のことは忘れて、楽しさに浸りきっていた。おしゃべりし、笑い、乾杯した。ワインをお代わりして、心地よい酔いに身を任せた。

「何するんだ、馬鹿野郎!」

ところで、さっきまで浮かれ騒いでいたピェテルはどうしただろう? いま、彼はテーブルに突っ伏している。どうやら眠っているようだ。椅子に座ったまま、小さくいびきをかいている。

しばらくすると、ピェテルの隣の男性が立ち上がった。ピェテルが自分の親友だと言った人物だ。その男性はキッチンに何かを取りにいき、戻ってくる途中でうっかりピェテルにぶつかった。するとピェテルは跳ね起きて、怒声をあげた。「何するんだ、馬鹿野郎! どこに目ん玉つけてる⁉」

本来のピェテルはどんな人物で、普段はどんなふるまいなのだろうか?

客観的で、慎重に物事を分析する人? 衝動的で、勝手気ままにふるまう人? すぐに頭に血がのぼる短気な人?

ピェテルが数時間のうちに、まったく違う3つのふるまいを見せたため、どれが本当のピェテルなのかわからなくても不思議はない。

まず、ワインのテイスティングを積極的に行っていた客の1人がピェテルだった。だから、彼に物事を分析する力があるのは確かだ。

ところがリラックスしてくると、自分の気持ちをストレートに表現するようになった。「ぼくはぁ、きみのぉ何もかもが、だぁいすきだ」。彼の感情表現力は、このとおりだ。心にしまってあった思いをすべて、何のためらいもなく外に解き放ったのだ。ちょうどスウェーデンのポップ・シンガー、ペール・ゲッスルが歌っているように。すべての思いが一気にあふれ出す。