2024年4月に米国が規制強化
そして化学物質の影響は気候変動問題よりも深刻と評価されています。いま世界中で気候変動対策として脱炭素に取り組んでいますが、化学物質はそれよりも問題が大きく、先に取り組まなければならないのではないかとの議論が出てきたのです。
新規化学物質のうち、PFASと呼ばれる物質は1万種類以上あります。2004年発効のPOPs条約(ストックホルム条約)で、そのうちの3つの物質、PFOS・PFOA・PFHxSは、すでに廃絶対象(製造・輸入など原則禁止措置)となっていました。この条約にあわせ、日本でも然るべき規制が敷かれており、各国も同様です。
ところが、今年に入り、米国が今までにない強力な規制強化を決定しこの問題が再び注目を集める事となりました。米国の今回の取り組みは、PFOS/PFOA等に加え、新たに数種類のPFAS物質を対象に、事実上の完全排除を初めて法制化しました。また、EUはオールPFASと称して全PFASを対象とした規制に取り組んでいて、将来的には全てのPFASの使用を広く停止する方向で動き始めています。
米スリーエムは飲料水の汚染で1.8兆円を賠償
なぜ急速に、かつ強力にPFASを規制することになったのか。これは、昨年米国でスリーエム(3M)がPFASによる飲料水汚染の責任を巡り125億ドル(約1.8兆円)の賠償金を支払うことが決定したことがこの流れを決定的にしたと考えられます。この金額は賠償金としては過去2番目に高いものです。これを受けて3Mは2025年末までに全てのPFAS製品の製造を全廃すると発表し、業界に激震が走りました。
PFASは難分解性で生物蓄積性があり、人および動植物に対する慢性的な毒性がある物質です。すでに規制されているPFOSは、半導体をつくるときに溶剤として使われたり、金属メッキや泡消化薬剤などに利用されています。
また同じく規制対象のPFOAはフッ素ポリマー加工助剤(撥水剤など)や界面活性剤などに利用されています。身近なところではレインコートなどに使われている撥水剤もこの仲間です。
もちろん、日本でも規制しています。例えば水道水であれば1L当たり50ngを超えることはできません。ところが、米国では2024年4月に大幅に基準を強化して、1Lあたり4ngにしました(図表1)。これは事実上0ともいえる厳しい規制です。3年以内に水道水の状況を報告し、基準を超えていれば5年以内に改善せよ、との命令が出ました。
EUは2028年までの目標として、すべてのPFASを使用停止にする方向で動いています。そうなるとテフロン加工のフライパンや、撥水処理しているウインドブレーカーなども含めてすべてが使用できなくなります。3Mのような訴訟は今後も増える可能性があるでしょう。