JR京葉線のダイヤ改正に不満が爆発

今でも通勤時間優先の考え方が続いていることが顕著に現れたのが、2024年春にネット上などで物議を醸したJR京葉線のダイヤ改正に関する騒動だ。

コロナ禍を経た勤務体系の変化、各駅停車駅の利便性の向上などを理由として、朝夕ラッシュ時の快速電車を廃止するとJR東日本が発表したのである。この改正によって、朝の通勤が20分以上も延びる利用者が出現することがわかると、地元自治体の首長までもがJRに対してクレームを出す事態に発展した。

地元不動産業者にとってもこれは死活問題だ。通勤時間が延びることは、通勤距離が延びることに等しい。地理的な距離が同じでも、東京都心にあるオフィスに通うことが前提の住宅選びである限り、住宅地としての価値は下がる。地元不動産業者からすると、エリアの人気に大きな影響をおよぼすダイヤ改正はありえない。

「駅徒歩7分以内」じゃないと価値なし

本来、住宅地としての価値は、都心までの交通利便性だけで決まるものではない。むしろ重要なのは住環境だろう。閑静で落ち着いた街並み、自然環境の良さ、充実した商業店舗、いざというときの医療施設、質の高い教育、災害に強い地盤、犯罪の少ない治安の良さ、住民同士のコミュニティ。多くの要素から考えていくべきものである。

ところが、多くのサラリーマンにとっては、住宅はただ寝に帰るためだけの場所として判断されてきた。昭和から平成初期にかけては、父親だけが通勤する片肺エンジンの家庭が大半であり、一家を支える大黒柱の父親の「通勤」という価値尺度がまずは優先され、それに続いて商業施設などの利便性の充実度が評価されてきた。

これは共働き世帯が増えた現在でも、その傾向は強まりこそすれ、弱まることはない。新築マンションの広告でまず語られるのが、「最寄り駅まで徒歩で何分かかるか」であり、今や「駅徒歩7分以内でないとマンションとしての価値はない」とまで言われている。

駅までの距離がまずもって重要で、加えてその駅に急行が停車するのか、都心ターミナル駅まで何分でアクセスできるのか、などがマンションを選ぶ際の価値尺度になっている。