壁があるかぎり「男性が稼ぎ手、妻は家計補助」というモデルは健在
――国民民主党(玉木雄一郎代表)が看板政策として提げている「扶養家族103万円の壁の撤廃」をどう見てらっしゃいますか。
【上野】「今さら何を言っているのか」というのが第一印象ですね。X(旧ツイッター)では、こう書きました。
玉木代表は元財務省官僚なのに、「女性が夫の扶養の範囲で働く」というこの時代遅れの制度を、なぜ限度額を引き上げてまで延命させようとしているのか、私には理解できません。こうもポストしました。
昭和の時代、主婦のパートタイム就労が「発明」された
――130万円までは被扶養者として夫の健康保険に加入できるという制度です。さらに、夫の勤める企業によっては「家族手当て」を支給してくれるケースもありました。
【上野】1961年に専業主婦の「内助の功」を評価する配偶者控除が創られ、1985年には第3号被保険者制度が創設されました。これによって、それまで年金保険に入るには無収入でも保険料を払わなければならなかった雇用者の無業の妻が、保険料を負担することなく基礎年金を受ける権利を持つことになりました。さらに1987年には「配偶者特別控除」で「130万円の壁」が設定。この額までは被扶養者として夫の健康保険でカバーされることに。106万円までは使用者は女性雇用者の厚生年金を負担せずにすみます。のちにこの「130万円の壁」は「150万円の壁」にまで増額されました。この経過は、『令和4年版 男女共同参画白書』にわかりやすく説明してあります。私は家庭にいた主婦を巧妙な手口で低賃金労働にかり出したこれらの税制・社会保障制度を、皮肉を込め「発明だ」と書きました。
1985年に3号被保険者制度が創設された当時、有業で働いていた既婚女性たちは「私たちも家事をしているのに、なぜ無業の主婦だけが優遇されるのか」と憤っていましたし、全国婦人税理士連盟(現・全国女性税理士連盟)を始めとする女性団体も、この制度に抗議しました。