「半導体バブル」は一部だけ
しかし、台北の若者の困窮の原因はそれだけではない。コロナ禍で弱った若者の懐に、昨今の物価の上昇や家賃の高さが追い打ちをかけているという。
台北から地下鉄で40分ほど離れた淡水区に2人とルームシェアをして暮らす20代エンジニアの呉さんは語る。
「台北の一人暮らしのワンルームは、約1万7500~2万2000台湾元(8万〜10万円)くらいします。台湾の大卒初任給の平均は3万3000元(約15万円)ほどですから、台湾の若者の給料では手が出ません。ほとんどの若者が親からの支援や、カップル同士での同棲、ときには友達3人でルームシェアをしたりしてなんとかしています」
確かに、台湾の大卒初任給の平均は10年前の約2万7000元から比べると2割ほど上昇している。だが、それは半導体大手のTSMCなど一部の大企業や高給な業界が平均を押し上げている結果だとも言われており、大多数の若者は本業の給料だけでは生活していけない。
「私のように台北ではなく、郊外の新北市や淡水に住むという手もあります。それだと家賃が1万元ほどに抑えられますから」(呉さん)
台湾版「タイミー」で副業をする若者たち
また、台湾の若者の間では副業が一般的だ。企業でも副業を認めているところがほとんどだ。呉さんにも、本業のかたわらコンビニで副業したりしている知り合いがいるという。
「台湾では、日本でいう『タイミー』のような『小雞上工』という日雇い労働アプリが普及しており、日払いの臨時仕事や低技術の仕事を簡単に探せます。このアプリはホームレスや経済的に困窮している人々にも利用されています。ただし、専門職に適した仕事はほとんど見つかりません」(林氏)
女性はサービス業や受付の仕事が多く、レストラン、映画館、サービスカウンターが週末に臨時スタッフを募集するケースが増えているそうだ。男性の場合は、重労働系の仕事が多く、荷物の運搬、工事現場や工場での作業、洗車店やバイク修理店などの募集が多い。
台湾社会では、こうした複数の職業を経験していることをポジティブに捉える向きもある。そういう働き方は、「スラッシュキャリア(複数の職業を掛け持つ)」と呼ばれているが、実際には正社員の仕事に成長性や安定性がないため、不足分を補うためにアルバイトをせざるを得ない、というのが現状のようだ。