「扉を開く」と聞くと、聞き手の脳も扉を開く

間を置かず、情報を伝えるだけの話し方をした場合、聞き手はストーリーを映像化する時間が持てません。

そういう会話の際に聞き手の脳で使われているのは、もっぱら脳の左側の部分、音声を言語化してその意味を理解する領域です。

この場合、聞き手の脳は会話を「単なる情報」として扱うだけで終わります。この状態だと、おそらく会話ははずみません。

しかし、話し手が言葉を短く区切り、間をとって話すと、聞き手の脳内は変化します。言語処理の部分だけでなく、脳のほかの領域が活性化するのです。それは映画を観るときのような活動状態でした。

研究者がそのときの聞き手の脳をさらに詳しく調べたところ、聞き手の脳が話し手の脳を積極的に模倣していることを発見しました。

たとえば、話し手が「古い城の前に立ち、大きな扉を開くと」と言ったときには、聞き手の脳の運動皮質が活性化するのが確かめられました。

中世のドア
写真=iStock.com/Wibofoto
※写真はイメージです

これは、聞き手が想像の中で扉を開けようとしていることを示しています。

つまり、聞き手は話し手の話を経験し、共有しようとしているのです。まさに、話し手と聞き手の脳は同期していた(つながっていた)のです。

「目の前に広がる真っ赤なバラの園」を見ている感覚

さらに「城の中には、真っ赤なバラの花が咲き乱れていた」と言うと、今度は聞き手の脳の感覚皮質が活性化しました。これは話し手が感じたものと同じ感覚、つまり「目の前に広がる真っ赤なバラの園」を見ている感覚を聞き手も経験しているということになるのです。

このように、短い言葉で映像化が促されるたびに、聞き手の脳内では運動や感覚など、さまざまな領域が影響し合います。だから想像力が高まるのです。

さらには、上手な「間」をとることで、別の効果を生むことも検証されました。

間があるおかげで、聞き手はその話が次にどのような展開になるのか予想するようになります。

このとき聞き手の脳はどうなるかというと、神経細胞が活性化し、別の神経細胞と結合します。これがまた聞き手の想像する力をより高めるのです。

以上ここに述べたような脳の動きによって、話し手が短い言葉で区切り、効果的な間をとることで、聞き手はまるで映画を観るように話を聞くことができるというわけです。

それが一体感や親しみへとつながるわけですから、コミュニケーションブリッジの話し方の有効性は脳科学の面からも確かなものだといえるでしょう。