SNSにあふれる「母親たちの怨嗟」

以前出演した少子化に関するTV番組で、「子育てに関するネガティブな話題のほうがSNSなどでは拡散されやすい。子供を持つことで得られるいいこともたくさんある。そちらをもっと大きな声で言っていったほうがいい」と話す人がいた。

たしかに、SNS(特にX)を開けば、子供を産み育てることがいかにつらく苦しいのかという情報ばかり目につく。中には「外出中に何者かから抱っこ紐のバックルを外されて、子供を地面に落とすところだった」といった声もあり、明らかに悪意を持って子供と女性に加害しようとする者が残念ながら世間には存在していると分かる。

他にも、SNSでは家庭や職場などさまざまな場所で起こる子育ての苦悩が、具体的かつ熱量を持ってレポートされている。子供を産んだら全員が街でベビーカーを蹴られ、夫は育児に非協力的で、義父母とのあいだに軋轢が生じ、職場ではマミートラックに陥って肩身の狭い思いをするようになるのか? と思わされる勢いである。

子育てに苦しむ母親
写真=iStock.com/yamasan
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これはもうSNSというものの特性で、ネガティブなことのほうが拡散されやすいようにできているのだから仕方がない。

人は、本当に嬉しいことや幸せなことはSNSには書かないものである。「SNSは愚痴の捌け口にしているけれど、実際は全然幸せ」という人や、そもそもSNSをやっていない人もたくさんいる。

子育てしにくい社会であることが可視化された

しかし、「子供を持つことで得られるいいこと」を積極的に喧伝していくことは、果たして本当に効果があるのか? というと、少し疑問だ。

SNSに吐き出されている「子育てに関するネガティブなこと」は、何もSNSができたから発生したわけではなく、以前からあった声が可視化されるようになっただけなのではないか。

子供を産み育てにくい・女性や子供やマイノリティに冷たい社会であることはずっと変わらず、問題とみなされてこなかったり、声を上げにくかったりしたものが、SNSによって噴出しているのにすぎない。

「子育てっていいものですよ」と触れ回ったところで、実情が変わらなければ産んでから苦労する親が増えるだけである。それが「無責任」と糾弾されてしまうのが今の社会の空気で、やっぱり風当たりは強い。