大学は「のんびりした世界」ではなくなった。大学改革支援・学位授与機構教授の竹中亨さんは「そんな牧歌的雰囲気はとっくに昔語りである。今日の大学では、しばしば目標や計画が取り沙汰され、あるいは業務評価の結果が話題になる」という――。

※本稿は、竹中亨『大学改革 自律するドイツ、つまずく日本』(中公新書)の一部を再編集したものです。

東京大学の安田講堂
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「KPI」は大学にも導入されている

大学はのんびりした世界だというのが、世間の通り相場である。使い古した講義案を十年一日のごとく読みあげていれば通る世界、そう考えている人は少なくない。

しかし、大学のなかにいる人間には、そんな牧歌的雰囲気はとっくに昔語りである。今日の大学では、しばしば目標や計画が取り沙汰され、あるいは業務評価の結果が話題になる。とくに近年、頻繁に目にするようになったのが数値目標である。正式には「重要業績評価指標」(以下、KPI)といい、業務上の目標を数値化したものである。企業では、経営企画からマーケティング、人事にいたるまで幅広く活用されている。そのKPIが大学でも導入されているのである。

ただ、繁忙のただなかにいると、かえってその全体像はわかりにくい。なぜ、どんな仕組みがあって、日々こうも追いたてられるのか、大学人でも十分了解している向きは多くはあるまい。ましてや、大学外の人間はいっそうである。以下、まずそのあたりの現状を見てみよう。

手始めは中期目標・中期計画である。すべての国立大学には、6年間の業務期間(「中期目標期間」という)の間に達成を目ざすべき「中期目標」と、達成のための具体的な取り組みを記した「中期計画」が定められている。企業でいえば中期経営計画に相当するといえようか。ウェブ上で公開されているから、簡単に見ることができる。

多数の数値目標で「業務の端から端まで」管理されている

一瞥すれば、その細かさに驚くだろう。東京大学を見てみよう。たとえば教育の領域では、5つの中期目標と13の中期計画が掲げられている。前者は比較的抽象的な文言なので、ポイントになるのは後者である。どの中期計画も、10行近くにわたって取り組み内容をこと細かに記してある。そして、そのどれにも必ず評価指標なるものが付いている。6年経って中期目標期間が終わったときに、その計画が達成されたかどうかを判定するための指標である。そして、この評価指標の多くはKPIなのである。

一例をあげよう。東京大学の中期計画の一つは、学際的・先端的・分野横断的な学部教育を強化することである。そこには評価指標が3つ付されていて、その一つは、学部横断型の教育プログラムの修了者数を6年後には130人にするというKPIである。

東京大学の中期計画は、教育のほか、研究、産学協同、男女共同参画、業務運営、財務など、つまり大学の業務領域全体をカバーしている。その数は全部で55個、そして評価指標は123個におよぶ。中期計画にどんな内容を盛りこむかは大学ごとに異なるし、したがって中期計画や評価指標の数も大学によって多少がある。しかし、仕組み自体はどの国立大学でも変わらない。つまり、今日の大学は多数の数値目標によって、その業務の端から端まで管理されているといってよい。とても十年一日のごとき牧歌的な世界ではない。