不法移民問題は貿易交渉のカードに?

では、移民政策はどうか。

トランプ2.0政権が、国境管理の統括担当者にトム・ホーマン元移民税関捜査局(ICE)局長代理を起用し、1.0でトランプ氏の主要スピーチライターだったスティーブン・ミラー氏を政策担当の大統領次席補佐官に起用予定であることは、移民政策でも強硬な姿勢を貫く決意の表れと言っていい。

ホーマン氏は第1次政権時に「ゼロトレランス(不寛容)」という不法移民の強制送還政策を推進した人物だ。ミラー氏も不法移民の強制送還数を10倍の100万人以上に引き上げる計画を打ち出している。

不法移民はアメリカ南部の国境で深刻な問題となっているが、トランプ2.0がどのように国境を守るのかは発表されていない。また、移民労働力に依存するサービス業や農業のために必要な移民が合法的に入国できる仕組みをどのように構築するのかも不明だ。

アメリカとメキシコ国境道路脇のサインのイメージ画像
写真=iStock.com/BruceStanfield
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ナギ教授は「不法移民問題は、メキシコの関税における貿易交渉のカードになる」と読む。米国・メキシコ・カナダ貿易協定(USMCA)において、アメリカはメキシコの輸入品に関税をかけ、アメリカ国内の産業競争力を高めて中産階級の復活を図る狙いだ。

トランプ2.0は、アメリカ国内での不法移民問題の解決を目指す一方で、「アメリカを再び偉大にする(Make America Great Again)」という目標を達成しようとしている。

アイデンティティ・ポリティクスからの脱却

さらにトランプ2.0は次の施策に取りかかるだろうとの声が多い。

例えば、教育省の解体であり、過度なジェンダー・イデオロギー及びLGBTQ+関連教育や批判的人種理論(Critical Race Theory、)を教える学校への連邦助成金の削減であり、未成年者への性別適合医療の禁止であり、トランスジェンダーの女子生徒の学校スポーツへの参加禁止などである。

※ウォール・ストリート・ジャーナルは、批判的人種理論を「アメリカ社会に根付いた制度上の人種差別を教える学問的枠組みを指す」と定義づけている。

そんな中、教育長官にはリンダ・マクマホン氏が指名された。マクマホン氏はプロレス団体「WWE」のCEOを務めた経験を持ち、トランプ1.0では中小企業局長を務めていた。WWEは過去に、トランスジェンダーの人々に対する差別的な描写が批判を受けたことがあるが、マクマホン氏がこれまでLGBTQ+コミュニティに関して積極的な支援を表明したことはない。

こうした流れを見ると、トランプ2.0政権は今後、アイデンティティ・ポリティクスから脱却していくとの見方が強い。

これは、外交上では一部の国との関係を改善する可能性がある。

ハンガリーなど保守派の同盟国にとっては、2国間関係の基盤がアイデンティティ・ポリティクスから“国益”に変更されることで、より強くなるだろう。なぜなら、バイデン政権と過去の民主党政権が輸出していたプログレッシブなアイデンティティ・ポリティクスは東欧、中欧、日本を含む東アジア、南米の保守的な国々との2国間協定の妨げになっていたからだ。

スカンジナビア諸国、西ヨーロッパ諸国、カナダなどは、今後はアイデンティティ・ポリティクスではなく、“国益”を重視する外交を行うようになりそうだ。