惜しげもなく公開できるのはなぜか

大前さんはBBTを大学化するということに、とても熱心でした。私も、遠隔教育システムを利用して、家にいる人が学ぶことができるというアプローチに共感するものがあり、大前さんがBBTを大学化していくプロセスでは、いろいろな形でお話しをしました。私自身も、できるだけ広い人が教育にアクセスする可能性をつくりたいと思っていて、授業をインターネットの上で公開し、多くの人が最高の教育を受けられるしくみのプロトタイプづくりをやってきました。SFCの授業をインターネットで初めて共有するということもやっていましたし。

大前さんから学びたいという人は無限にいると思いますが、ふつう、ああいうビジネススクールというものはものすごく高いわけです。これを公開してしまうという考え方は、「秘密にしておいてナンボ」という経営コンサルタントの世界では、変な発想のはずなんです。そこは大学もけっこう似ています。大学の授業を公開すると、「授業料を払ってきた人の立場はどうなる」という議論が必ず出てくる。でも私は、それよりも重要なことは公開してしまうことだと思っています。「公開されたものを見て、この大学に入りました」という高校生が現れると「そら見たことか。ちゃんと宣伝にもなっているのだから、公開してもいいじゃないか」と、大学の中で一所懸命説明しています。思い切って拡げてしまえば、たくさんの人にインパクトを与えられるのですから。世の中には、このことができる人と嫌な人がいるんです。「嫌な人」は、蓄積で生きようとする人。「できる人」は、前に進みまくって、その次のことをやっているので公開しても惜しくもない。

たぶん、大前さんの中では、ご本人がその分野で進み続けているということと「共有する」ということが組み合わさっている。今、大前さんは人をつくる仕事をしているのかもしれないけれど、たぶん、それをしつつ、面白そうなことには相変わらずご本人が飛びついていらっしゃるのだと思います。本を書くあのペースが尋常じゃないですよね。それは書かせている編集者のせいかもしれないけれど(笑)、それだけ好奇心が絶えないという証拠だと思うんです。それを惜しげもなく共有し、公開し、本人は「次へ」という仕組みなのではないかと思います。

われわれのような分野の研究者というものは、つねに新しい問題を探して解いていかなければいけないと思うんです。経営というものも変わるのでしょうし、ビジネスの弾も変わるのでしょうから、大前さんのような経営の視点を持つ方たちも、常に新しいものを求めていらっしゃる。この「常に新しい問題を探す」という視点を共有できるということが、分野を超えて人がつながるときに大事なことだと思います。新しいことに挑戦している者同士がくっつけば、ひじょうに強い力、パイオニアリング・エフェクトが出てくる。経営畑のパイオニアの方は常に新しい刺激になりますので、私にとってとても大事な関係です。その中でも大前さんは、私の人生にとって非常に特別な方です。

(慶應義塾大学教授 村井純=談/インタビュー・構成=オンライン編集部)