マイクを通さずに生の声を聞かせることの効果
マイクの話をずっとしてきましたが、「生の声」を聞かせたほうが効果的な場面もあります。ひとことでいえば「本心を語っている場面」は、「作られた感」を出さないために生の声のほうがいい。たとえば怒っているときは、マイクの前でワーワーやらずに、生の声を聞かせる。
2023年のM-1では、くるまくんが、マイクから離れて座り込んでお客さんに直に話しかける場面がありました。これなんかは、完全に生の声を聞かせることの効果を理解したうえでやってるなと思いました。
頭では理解できても、実際にやるとなると難しいものです。くるまくんは僕が話したことを理解してくれたうえで自分の考えも入れて、効果的に漫才に反映させている。やっぱりすごいなと思います。
「ホームの劇場ではウケる」という落とし穴
また、2023年のM-1前のいつだったか、くるまくんから相談を受けました。「試しにツッコミのケムリに変なことをさせたら、劇場でウケた。だから今度のM-1はその感じで行こうと思う」というようなことを言われたので、僕は反対したんです。
彼らのホーム劇場である神保町よしもと漫才劇場やったら、たしかに、そういうことをしてもウケるでしょう。でも、なまじホームという小さな島で「ウケてしまった」ことで自信をつけ、その形をM-1に持っていくのはよくないんやないかと感じました。「神保町だけでウケる」という落とし穴にハマってしまうかもしれないと思ったんです。
M-1で決勝に行き、ひいては優勝まで狙うのなら、絶対に、くるまくんが面白いほうがいい。令和ロマンはボケで笑いをとるほうが向いているから、元の形に戻したほうがいいと伝えました。
そして蓋を明けてみれば、令和ロマンはストレートで決勝に進出し、ファイナルラウンド3組に残り、さらには優勝してしまった。1本目でも2本目でも、くるまくんがボケ倒して爆笑をとっていたのを見て、本当によかったなと思いました。