混乱と脱走が相次ぐ北朝鮮「援軍」の実態

ウクライナ戦線に北朝鮮軍が姿を現した。戦力不足が常態化しているロシアへの援軍だ。ロイターは韓国情報機関のリポートを取り上げ、金正恩政権は「数千人規模」の部隊をロシアのクルスク地域に派遣したと報道。その数は最終的に10万人規模まで膨らむ可能性があるという。

2024年6月19日、北朝鮮の平壌にある順安国際空港で行われたプーチン大統領の出国セレモニーで、ロシアのプーチン大統領(右)と北朝鮮の金正恩委員長
写真=EPA/SPUTNIK POOL/時事通信フォト
2024年6月19日、北朝鮮の平壌にある順安国際空港で行われたプーチン大統領の出国セレモニーで、ロシアのプーチン大統領(右)と北朝鮮の金正恩委員長

だが、派遣部隊のお粗末な実態が明らかになりつつある。派遣兵らは北朝鮮最精鋭の第11軍団(ストーム軍団)所属の兵士たちだが、現場のロシア兵の間で混乱が広がっている。傍受された通信には、ロシア兵が北朝鮮兵を「クソったれ中国人」と呼び、指揮系統の不備に頭を抱える様子がありありと記録されていた。

さらに、北朝鮮による派兵は、金正恩体制そのものを揺るがしかねない皮肉な状況を生んでいる。すでに戦場からは18人の兵士が脱走したとされ、専門家は「外の世界の実態を知ることで、体制の嘘(北朝鮮が優れた国家だと吹聴する金正恩政権の虚構)を見抜く契機になる」と指摘する。

一方で、ロシアは北朝鮮兵1人あたり月額2000ドル(約31万円)を支払っているとされるが、その大半は金正恩政権の懐に入り、兵士の手元には「ほとんど、あるいはまったく渡らない」という歪んだ実態も明らかになってきた。

プーチン政権が抱える人的資源の不足と、外貨を獲得したい金正恩政権の思惑が交差する中、異例の軍事協力がウクライナ戦争に新たな局面をもたらしつつある。

北朝鮮が踏み切った大規模派兵

ロイター通信によると、北朝鮮は「数千人の部隊をロシアのクルスク地域に派遣してウクライナとの戦争を支援している」という。

同記事は韓国情報機関の発表を取り上げ、「過去2週間で、ロシアに派遣された北朝鮮軍がクルスク地域に移動し、戦場への展開を完了して戦闘作戦に参加している」としている。ウクライナのゼレンスキー大統領は、北朝鮮軍がすでに戦闘で死傷者を出しており、この事態は「不安定性の新たなページを開く」と強い警戒感を示す。

北朝鮮は、ロシアとの防衛協力を強化する姿勢を鮮明にしている。北朝鮮国営メディアによれば6月、両国首脳が署名した相互防衛条約が批准された。いずれかの国家が武力攻撃を受けた場合、相互に支援することを定めている。

派兵の規模については当初、米国防総省が1万1000人規模と見積もっていた。だが、ブルームバーグは複数の情報筋の話として、最終的な派遣規模が最大10万人に上る可能性があると伝えている。北朝鮮あるいはロシアからの正式発表はない。